サステナビリティ

TNFD提言に基づく情報開示

TNFDとは

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)は、国際的に自然の劣化への危機感やその回復の重要性が増していることを背景に、企業における自然関連のリスク管理やその開示の枠組みを構築するため2021年に発足したグローバルなイニシアチブです。2023年9月にはタスクフォースから提言が提示され、自然関連課題が企業の戦略的なリスクにかかわる問題であることから、企業に対し事業を通じた自然への依存・インパクト、リスク・機会を把握・開示することを推奨しています。
提言の中では、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)と同様に4つの柱(ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理、測定指標とターゲット)を開示枠組みとしています。さらに、この4つの柱の中に自然関連の課題に固有の開示項目があり、例えば、自然関連のリスクや機会は企業が関わっている自然の地域特性の影響を受けやすいことから、バリューチェーンを通じて自然と関わる「場所」を踏まえて開示することを推奨しています。
なお、NGKグループは2024年1月、TNFDの「TNFD Early Adopter※1」として早期の開示を宣言しています。

1 2025年会計年度までに開示を始める企業・団体(2024年1月時点:46カ国320社、うち日本企業は80社)

自然関連財務情報開示タスクフォースのTNFD Early Adopterのロゴデータです。

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自然・生物多様性に対するNGKグループの考え方

私たちの社会や経済活動は、自然やその恵みに依存することで成り立っていますが、その自然は世界的に急速に劣化していると言われています。これに対する危機感や自然の回復の重要性の認識が高まる中、2022年に開催された第15回国連生物多様性条約締約国会議(COP15)では、世界の共通目標として「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年までに「生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」という「ネイチャーポジティブ」の目標が掲げられています。
NGKグループにとっても自然関連課題は事業活動そのものに影響を及ぼす可能性があるため、バリューチェーン全体を通じて事業がどのように自然に依存し、影響を与えているのかを把握することが重要と考えています。NGKグループ環境ビジョンでは、「自然との共生」を重要な課題の一つに定め、生態系への環境負荷を最小限に抑制するとともに、啓発活動を通じて一人ひとりの意識を高め、自然との共生を図ることを掲げています。

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開示の目的

TNFD開示を通じてNGKグループにおける事業活動と自然の接点を明らかにし、自然への依存・インパクト、リスク・機会の重要性を把握し、積極的に開示することで社会やステークホルダーの期待に応えます。また、開示を通じてグループ全体の自然関連の取り組みを推進することでNGKグループ環境ビジョンの「自然との共生」の実現に寄与し、持続可能な社会の実現に貢献します。

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開示の範囲

TNFD提言に沿った2025年会計年度の全面的な開示に向けて、NGKグループにおける自然関連の依存・インパクト、リスク・機会を特定するために、TNFD提言およびその評価手法であるLEAPアプローチ(後述)を踏まえて検討を進めています。TNFD提言では先行的な部分開示を推奨していることから、今回はLEAPアプローチに基づく2024年7月時点の分析結果を開示します。
なお、本開示の内容はESG統括委員会の審議を経て取締役会に報告されています。

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LEAPアプローチの概要

TNFD提言では自然関連の依存・インパクト、リスク・機会の評価手順としてLEAPアプローチに基づく分析を推奨しています。LEAPアプローチはLocate、Evaluate、Assess、Prepareのプロセスで構成されており、各プロセスにおいて下表の内容を実施します。

LEAPアプローチの実施内容

Locate
自然との接点の発見
Evaluate
依存・インパクトの診断
Assess
重要なリスク/機会の評価
Prepare
対応・報告のための準備
  • バリューチェーンで自然への依存・インパクトが重要な分野の検討
  • 自社拠点、バリューチェーンで依存・インパクトが重要な分野の活動場所や関連する生態系の把握
  • 優先地域(生態学的に影響を受けやすい地域、依存・インパクトが重要な地域)の評価
  • 自社拠点、バリューチェーンの各場所における生態系サービスへの依存、与えているインパクトの特定
  • 重要な依存・インパクトの評価・測定
  • 依存・インパクトの内容を踏まえた自然関連リスク・機会の特定・重要性評価
  • 特に優先度の高いリスク・機会の特定
  • リスクや機会の管理プロセスの検討
  • 評価内容を踏まえた対応戦略の検討
  • 目標設定方法の検討
  • 情報開示内容の検討

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事業のバリューチェーンを通じた自然への依存・インパクトの整理

LEAPアプローチを基にNGKグループの事業別に、ENCORE※2やSBTs for Nature※3のツール、CDP water impact tool※4を参照し、バリューチェーン主要段階ごとの生態系サービスへの依存・自然に与えているインパクトの重要性をヒートマップとして作成し、事業の依存・インパクトの全体像を把握しました。
なお、今回の開示内容はNGKグループの事業が属する、もしくは事業に類似した分野における関連学術論文や研究結果の情報を踏まえて自然への依存・インパクトの重要性をあくまで暫定的に評価したものであり、NGKグループの事業の実態に則したものではありません。今後は実態調査を通じて、実際の影響度や事業規模などを総合的に判断し依存やインパクトの重要性のレベルを見直します。

2 金融機関のネットワーク「自然資本金融同盟」と、国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)などが共同で開発した、企業の自然への影響や依存度の大きさを金融機関が把握するためのツール。

3 自然に関する科学に基づく目標設定のアプローチを開発・推進するイニシアチブであるSBTs for Natureが、目標設定の中で使用を推奨しているツール。セクターや活動を選択することで、その業種レベルでの自然へのインパクトの重要性を確認することができる。

4 企業などが環境影響について情報開示するためのグローバルな情報開示システムを運営する非営利団体のCDPが提供している、水に与えるインパクト(取水、汚染)の程度を業種別に評価したツール。

主要なバリューチェーンにおける自然への依存・インパクトの評価結果
(NGKグループの事業に近い産業分野の一般的評価)

バリューチェーンにおける自然への依存やインパクトの評価結果を図示しています。バリューチェーン内の調達、製造、物流、販売という主要段階ごとに事業の依存・インパクトを算出し全体像を示しています。

評価の結果、バリューチェーンの段階ごとに主に以下を確認しました。

調達段階

依存の観点では、水資源の利用、水循環・水質、気候調整の面での自然への依存が大きい。
インパクトの観点では、自然由来の原材料を採掘する際の土地利用変化や水質汚染におけるインパクトが大きい。

製造段階

インパクトの観点では、水利用によるインパクトが大きい。

物流段階・販売段階

依存の観点では、気候調整の面での自然への依存が大きい。

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NGKグループ生産拠点における自然との接点の把握

NGKグループの主な生産拠点を対象として自然との接点を評価しました。評価において、生物多様性の重要性や生態系の十全性※5には株式会社シンクネイチャーによる学術的な知見に基づいた生物多様性のビッグデータを含む、さまざまなデータを用いています。また、水の物理的リスクについては水リスクや汚染などの関連データベースを使用しました。

実施した自然との接点評価

調査項目 内容
生物多様性の重要性に関する評価
  • 保護地域※6や生物多様性重要地域(KBA)※7と生産拠点との近接状況の評価
  • 生産拠点の緯度、経度における生物多様性の重要性の調査
生態系の十全性の評価
  • 生産拠点の緯度、経度における生態系の十全性の評価、開発圧の評価
水の物理的リスクの評価
  • 水ストレス、水質汚濁、水災リスクの調査

5 生態系の健康状態を指す指標であり、都市化が進んでいる地域は生態系の十全性が低いと言える

6 地域や国、国際条約などによる保護地域

7 生物の多様性保護の面で重要な地域で、標準化された科学的基準や閾値に基づいて特定された地域(KBA : Key Biodiversity Area)

生物多様性の重要性・生態系の十全性の評価結果

生物多様性の重要性および生態系の十全性をNGKグループの国内外49生産拠点について評価しました。下図より、多くの生産拠点が生物多様性の重要性の高い地域(希少・固有の生物が多い地域)、さらに生態系の十全性が低い地域(生態系の損失度が高い地域)にあることが分かりました。また、一部の拠点は保護地域(IUCNカテゴリーⅣ:種と生息地管理地域※8)もしくは生物多様性重要地域と500m圏内で接近していることが分かりました。該当拠点も含めて、環境に関する法令やそのほかの要求事項に対しては、遵守するだけでなく自主基準を設定し、環境汚染の防止および環境保全のレベルアップに努めています。今後は、今回の結果と各拠点の事業内容などを考慮して、優先的にいくつかの拠点を選び詳細な分析を行います。

8 世界や国・地域などのレベルで重要な植物・動物種や生息地の保護や回復を目的とした保護地域のカテゴリー

国内外の生産拠点における生物多様性の重要性および生態系の十全性の一般的評価結果

国内外の生産拠点における生物多様性の重要性および生態系の十全性の一般的評価結果を図示しています。NGKグループの国内外49生産拠点についての十全性を評価しており、45拠点が生物多様性の重要性が高い地域にありました。

水の物理的リスク

同様にNGKグループの国内外49生産拠点について評価しました。その結果、水質汚濁の観点では、リスクが高い拠点はないことを確認しました。一方で、水災リスクと水ストレスの観点では、一部の拠点でリスクが高いことが分かりました。この結果を基に、今後はいくつかの拠点を選び詳細な分析を行います。

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自然関連リスク・機会の概要

TNFD提言におけるリスク分類を参照し、NGKグループ全体の自然関連の主な依存・インパクトに対して現時点で想定される具体的なリスク・機会を確認しました。まず、現時点で想定される自然関連の主な依存・ネガティブインパクトとリスクを以下に示します。

自然関連の主な依存・インパクト、リスク

リスク分類 主な依存・インパクト リスク
物理的リスク 急性・慢性
  • 原料採掘、製造工程の水資源への依存
  • 過剰取水や気候変動による水不足
  • 気候調整や災害緩和、土壌安定への依存
  • 気候調整力低下や災害緩和、土壌安定能力の低下による災害
移行リスク 政策
  • 天然資源への依存
  • 原料採掘による土地改変
  • 資源採取や土地改変規制による価格高騰
  • 水利用
  • 取水規制による水の価格高騰
  • 汚染物質排出
  • 水質汚濁
  • 汚染物質排出、水や原材料に関する情報開示義務強化による対応コスト増
市場
  • 天然資源の利用
  • 原料採掘による土地改変
  • 水利用、水質汚濁
  • 持続可能原料(リサイクル材、認証材など)の価格高騰
評判・賠償責任
  • 工場の土地利用
  • 汚染物質排出
  • 水利用
  • 水質汚濁や汚染発生、水の過剰利用による評判悪化、売り上げ減
  • 罰金など法的請求によるコスト増

次に、NGKグループは地球環境に貢献する製品・技術を開発し提供していますが、現時点で想定される機会として主な製品ごとの自然へのポジティブインパクトを以下に示します。

NGKグループ製品による自然関連のポジティブインパクト

事業内容 製品 自然へのポジティブインパクト
気候変動 土地
利用変化
資源利用 汚染/汚染除去
温室効果
ガス排出
陸域生態系の利用 その他
資源利用
廃棄物 温室効果ガス以外の大気汚染 土壌汚染 水質汚染
エンバイロメント事業本部 自動車関連事業 排ガス浄化用セラミックス
NOxセンサー
産業プロセス事業 加熱装置、耐火物製品
膜分離装置
高温ガス集塵装置
低レベル放射性廃棄物用処理装置
デジタルソサエティ事業本部 HPC事業 半導体製造装置用セラミックス
電子デバイス事業 EnerCera
PEC事業 絶縁放熱回路基板
金属・金型事業 金属・金型製品
エネルギー&インダストリー事業本部 エナジーストレージ事業 NAS電池
ガイシ事業 がいし

今後、自然への関心が世界的に強まることにより、自然由来の原材料の調達コストが増加することなどがリスクとして挙げられます。一方で、一般的にセラミックスは耐熱性、耐食性、耐久性が高く長寿命のため、他の材料を使用した場合と比較して原材料の使用量や廃棄物の排出量を削減することが可能となります。
また、NGKグループが供給する製品およびサービスは、自然へのインパクト低減に貢献できると期待しています。
例えば、自動車排ガス浄化用セラミックスは超薄壁化による製品の高性能化を実現しており、従来の製品と比較して自動車の排ガスに含まれる有害物質を効果的に浄化します。また、NAS電池は、天候や昼夜などによって発電量が左右される再生可能エネルギーの電力需給バランスを調整することが可能です。これにより、化石燃料などの自然資源に依存した発電量を削減します。

NGKグループでは従来より、事業活動を通じた社会貢献が企業の最も重要な使命の一つと考えており、会社設立から1世紀以上にわたり蓄積した技術を生かして「NGKグループビジョン」で掲げるカーボンニュートラルとデジタル社会に寄与し、地球環境に貢献する製品・技術を開発、提供していきます。

環境貢献製品・サービス

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今後の取り組み

今後は、NGKグループの事業内容や生産拠点の特徴と今回の客観的な評価結果を照らし合わせて、自然への依存・インパクト、リスク・機会を見直します。特に、自然への依存やインパクトの調査では、実際の水資源の利用や土地利用が自然へ影響を与えていないか重点的に検討を進めます。また、生産拠点と自然との接点についても、実際の事業活動による自然への影響を詳しく調査します。これらの詳細調査と合わせて、2025年会計年度のTNFD提言に基づいた14項目の開示に向けて、4つの柱の内容を充実させていきます。

参考情報:自然関連の既存の取り組み

生物多様性の保全と再生

(2024年7月作成)

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