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トップメッセージ

「変革と挑戦を続ける。多様な視点を取り入れ、挑戦を続けながら、ステークホルダーとの信頼関係構築を目指します。」日本ガイシ株式会社 代表取締役社長 小林茂(こばやし しげる)

2023年を振り返って

2023年5月、新型コロナウイルス感染症の位置付けが「5類感染症」に移行され、新幹線に乗ると座席はほぼ満席、人の移動が一気に活発化したのを感じています。当社の社員食堂でも、久しぶりに多くの社員が食事を楽しむ光景を見ることができました。

そうした変化を目にして、これまで社会全体を覆っていた閉塞感が収束したことを実感しました。それとともに、誰もが自由に移動し、人と会って話すことのできる「開かれた社会」の大切さを強く意識することになった1年でした。

また、さまざまな企業の不祥事が相次ぐ中、ステークホルダーとの信頼関係を構築することの重要性を改めて認識した年でもありました。当社も2018年にがいし等の製品について、お客さまの求める受渡検査を契約通り実施していなかった事例がありましたが、こうした不祥事は従業員をはじめとするステークホルダーとの関係性、そして企業風土に起因する面が大きいと考えます。従業員が言いたいことを言えなかったり、できないことを「できない」と言えなかったりするような雰囲気があれば、それは必ず何らかの形で歪みとなって表れてくるからです。

ステークホルダーに信頼され、誇りに思っていただけるような会社であり続けること。その誓いを常に経営の軸に置かなくてはならないと、思いを新たにしているところです。

外部環境の変化

外部環境に目を向けると、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来、社会は変化し続けていると感じます。エネルギー価格の高騰と、それに伴う海外での物価上昇。さらに、物価高に対応するために各国が金利を引き上げたことで日本との金利差が生まれ、極端な円安によって日本の物価も上昇……と、さまざまな連鎖が起こりました。マーケットはそのように必ず変動するものだということを、改めて強く意識させられています。

また、2024年元日には能登半島地震がありましたが、ほかの地域でも南海トラフ巨大地震など、大きな地震がいずれは起こることが予測されています。一連の自然災害もまた、市場に大きな変化をもたらすであろうことは言うまでもありません。こうした変化を当然のものとして受け止めて、どう柔軟に対応していけるか、そのための準備をどう整えておけるかがこれまで以上に大事になっています。

当社に置き換えれば、製造技術本部がエンジニアリングチェーンとサプライチェーンの「見える化」を進め、生産性の向上を図ろうとしています。また、DXの推進による生産性向上にもここ数年、継続して力を入れてきました。そうした地道な積み重ねを一人ひとりが自律的に進めていけるような風土をつくっていくことが、すなわち「変化に備えること」になるのだと考えています。

一方で、私たちの事業を直接的に取り巻く状況にも、さまざまな変化が起こっています。

例えば、コロナ禍における半導体不足で製造が停滞していた自動車産業も、ここに来て生産台数が一気に増加しています。また、エネルギー価格の上昇は各国のエネルギー政策に変化をもたらし、蓄電池の需要が高まってきました。そうしたビジネスチャンスともいえる状況がある一方で、拡大し続けると思われていた半導体市場の伸びが突如として鈍化。スマートフォンやパソコンの売上も高価格化の影響や中国の需要の低下で急激に減少しており、そこに使われる電子部品の市場が停滞しています。また、同じくデータ量の爆発で伸び続けるかと思われたデータセンターの需要も一時的に減退するなど、想定外の市場変化が生まれてきています。特にデジタル関係の市場は振れ幅が大きく、ある日突然冷え込む危険性を実感させられました。

市場の変化に左右されない収益力向上に向けて

さまざまな分野の企業と協働しながら、デジタル社会関連製品とカーボンニュートラル関連製品の開発を加速させていきます

「NGKグループビジョン Road to 2050」の中で掲げた「5つの変革」では、その一つに「収益力向上」を挙げています。しかし、改めて2023年度を振り返ると、営業利益が目標達成に至らないなど、実績という点では物足りなさの残る1年でした。

確かに、先に述べたスマホ・パソコン需要減によるデジタルソサエティ事業の低調、また半導体不足による自動車生産台数の減少も、昨年度前半はまだ回復していなかったなどの事情もありました。しかし、それだけではありません。原材料の高騰がありながら、その分の価格転嫁を十分にできていなかったことも影響したと考えています。市場環境の変化が非常に激しい時代においても、継続的なコスト削減や戦略的な価格転嫁により収益力を向上させていきたいと考えています。

今後、半導体市場は再び拡大に向かい、2030年までには2021年比で約2倍の1兆ドル規模にまで成長すると言われています。その急成長に備え、デジタル分野における新製品開発、市場投入の準備に注力する必要があると考えています。自動車のEV化も、充電機器などのインフラ不足やバッテリーの高コストなどの課題があり、当初想定されていたペースでは進んでいません。一方でハイブリッドカーの売上は大幅に伸びており、また自動運転化なども進んでいることから、自動車関連産業においてもデジタル関係の需要が今後さらに拡大する可能性があると見ています。

また、2030年以降はカーボンニュートラルの実現に向け、温室効果ガス削減に向けた社会全体の仕組みづくりが加速すると予測されます。化石燃料の代替エネルギーの中心がどうなっていくのかはまだはっきりしませんが、どのようなエネルギーシステムが導入されても対応できるよう、さまざまな分野の企業と協働しながら準備を進めておく必要があると考えています。

NV1000の成果と今後の展開

2030年に新事業化品売上高1,000億円を目指す「New Value 1000」への取り組みを着実に進めています

一方で、2023年度には大きな成果がいくつかありました。2030年度売上200億円を目指して、パワー半導体モジュール向けの絶縁放熱回路基板の生産能力を2.5倍に増強することを決めましたし、独自の赤外線技術を用いた有機化合物結晶探索サービスも開始。2030年に新事業化品売上高1,000億円を目指す「New Value 1000」(NV1000)が着実に進んでいます。もう一つの成果は、NV1000を従業員の多くが強く意識するようになってきたことです。「誰かが新しい事業を立ち上げてくれるだろう」と待っているのではなく、「何か自分で始められないか」と、会社の成長を「自分ごと」として考えようとする姿勢が広がってきたように感じています。

さらに、従来は研究所で開発テーマを決めていったん走り出すと、「売上が見込めないのではないか」といった指摘があってもなかなか止められないという問題がありました。そこで、NV1000のスタートとともに、発案から事業化に至るまでの流れの中に「NVゲート推進会」という議論の場を設定。そのテーマの開発・事業化には何が不足しているのか、課題にはどう対応するのかを徹底的に話し合う仕組みをつくりました。

これによって、早い段階で開発テーマを取捨選択できるようになっただけでなく、「取り組みを始めても、ときには失敗もある」ことを、当然のこととして受け止める雰囲気ができてきました。先にも触れた「失敗するかもしれないけれどやってみたい」ということを、以前と比べて言いやすくなっているように感じるのです。

大気中の二酸化炭素を吸着・回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」用セラミックス、また混合ガスや混合液から特定の気体や液体を分子レベルで分離する「サブナノセラミック膜」など、カーボンニュートラルの実現に向けて現在開発を進めている新たな製品は、そうしたチャレンジの中から生まれてきたものです。加えて、有機化合物結晶探索サービスや、株式会社リコーと共に設立した電力事業会社「NR-Power Lab株式会社」など、モノづくりにとどまらずサービスを提供する形の事業にも踏み出せたことは、NGKグループにとって大きな収穫だと考えています。

さらに今後、デジタル社会関連製品の開発をより促進し、早期事業化を図るため、新研究開発棟の建設にも着手しました。また、「日本ガイシはこういう会社ですよ」とお客さまやパートナー企業の皆さまに具体的にお示しするとともに、社内外の人材の交流を生み出してお客さまの困りごとをお聞きしたり、新たな創造につなげたりする場として、共創施設の建設も進めています。

成長のカギは無形資産の活用

また、今後の成長の重要なカギの一つと位置付けているのが、知的財産戦略です。これまでは、開発部門と事業部門とが連携し、開発した技術を特許出願して権利化したり、他社の特許を侵害しないように調査したりといった、いわば「守り」の戦略が中心でした。もちろん、この重要性に変わりはありませんが、今後はそれに加えて、新規事業の創出につながる「攻め」の知的財産戦略を展開していきたいと考えています。

具体的には、知的財産情報を分析する「IPランドスケープ」を用いて、世の中の新技術や業界全体の動向を分析する。さらに、パートナー企業と協働して、私たちが持つ技術や特許を使っていかにお客さまのニーズに応えていけるのか、ビジネスとして成立させるためにはどんな特許が必要なのかという戦略を構築していく。そうした、事業・開発・知財の戦略を三位一体で推進していける体制をつくりたいと考えています。

これまでの「知的財産部」を再編し、新たに「知財戦略部」を創設したのも、その点を明確化したいという考えからです。ここを拠点に、知財マインドの醸成、活動体制の見直し・強化、知財スキルの向上などに積極的に取り組んでいきます。

DX戦略も、引き続き重要なカギとなります。ものづくりの現場においては、デジタルに関する意識はすでに大きく変わってきており、データやデジタルの活用は確実に進んできました。その一方、本社や間接部門においては、デジタル化が十分に進められてこなかった面があります。

「NGKグループデジタルビジョン」の中で定めた「DX推進ロードマップ」のステージ1「デジタル活用の基盤づくり」が2023年で終了し、2024年からはステージ2「推進体制の確立と実績の積み重ね」が始まります。経営の場におけるデータを活用した意思決定、本社・間接部門における業務効率化など、あらゆる領域でデジタルの活用をさらに進めていく予定です。

そして、こうした変化を支えるのはやはり人的資本です。NGKグループの理念にも、「私たちが目指すもの」の一つとして「人材 挑戦し高めあう」があります。また「5つの変革」の一つである「ESG経営」の中でも、ありたい姿を実現するためになすべきこととして「良き人材の確保と育成」を掲げてきました。2023年度は、こうした姿勢をさらに具体化して「NGKグループ人的資本経営方針」を策定。これを基に、国内グループ会社との意見交換を行いました。今後、海外グループ会社との共有も進めていこうと考えています。

新しい事業や商品をスピーディーに生み出していかなくてはならない現代においては、今までにないものの見方や価値観、経験やスキルを持つ多様な人たちが、伸び伸びと活躍できる環境が重要です。現在、グループ従業員の約60%は日本以外にルーツを持つ方たちなので、それらの多様な視点からの指摘をいただきながら、本当の意味での意識のグローバル化を進めていきたいと思っています。

同様に、女性の活躍推進にも力を入れていきます。2024年3月には、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「Nextなでしこ 共働き・共育て支援企業」に選定されました。これまでの取り組みが評価されたものと受け止め、今後は経営に近いポジションにおいても性別にかかわらず活躍してもらえるような仕組みづくりに、一層注力していきます。

さらに、多様な分野での経験を持つ人たちを対象としたキャリア採用もより拡大し、新たな視点を取り入れていきたいと考えています。

社会から信頼される企業であるために

温室効果ガスの削減など、さまざまな社会課題の解決に貢献することで、企業価値の向上につなげていきます

日本ガイシ株式会社 代表取締役社長 小林茂(こばやし しげる)の写真です

私は、企業というものは、社会的な課題の解決に貢献しなくては存在意義がないと考えています。私たちNGKグループのパーパスも、「社会的課題をセラミック技術で解決して社会に貢献する」ということ。時代が変わり、状況が変わっても、この原点から離れることはあってはなりません。

セラミック技術を通じて温室効果ガス削減に貢献することは、私の最大の夢です。同時に、温室効果ガス削減は当社の中期的な大きな課題であり最大のミッションです。必ずセラミックスは、地球温暖化を防ぐための社会的課題の解決につながる。自分たちだけでできないことはほかの企業とも協働しながら、そのミッションを果たしていきたいと考えています。

幸いにも私たちには、創業から100年あまりで積み重ねてきた膨大な実験データがあります。さらに、MI(マテリアルズ・インフォマティクス)などの技術の進化によって、従来は人間の勘や経験に頼っていた部分も、AIを活用することで大幅に効率化できるようにもなってきました。あとは、お客さまの声にしっかりと耳を傾ければ、もっと多くの、もっと社会に貢献できる製品を生み出す力が私たちにはあると確信しています。

挑戦なくして成長はない

私は企業にとって最も重要なのは「ステークホルダーに信頼されること」であり、企業価値とはその会社が「どれだけ世の中に貢献できているか」を示すものだと考えています。

もちろん、株価やPBR(株価純資産倍率)といった財務上の価値は非常に大事です。特に、株主の期待に応え、株価を上げていくためには、ただ業績を伸ばすだけでは足りず、会社として新しいものを生み出す力を備えていなくてはなりません。その「生み出す」プロセスを開示し、発信していくことによって、株主や投資家の皆さまに期待を高めていただくことも必要です。

そのために、推進したいのはやはり「挑戦」です。NGKグループには真面目で堅実な社風が根付いており、明確化されたタスクを実行することに長けている一方で、「失敗するかもしれないけれど、とりあえずやってみよう」というチャレンジ精神に欠けている面があります。

しかし、挑戦なくして成長はあり得ません。リスクを恐れて挑戦しなければ、それこそがもっとも大きなリスクにもなり得ます。

もし失敗したら、何度でもやり直せばいい。失敗の積み重ねもまた、次につながる経験になります。そうした、成功への保証はなくとも思い切って挑戦しようとする風土、そしてその挑戦を後押しできるようなカルチャーを育てていく必要があるのではないでしょうか。

それは、自分たちだけで内側にこもっていても、できることではありません。技術部門と営業部門との交流、また社外のパートナー企業との協働など、社内外を問わず「交わる」ことが重要です。自分たちとは異なる考え方、そしてバイタリティーやパワーから刺激を受けることで、新たな発見があるはずです。

すべてのステークホルダーから信頼される企業になるという、最大の目標を達成するために。NGKグループはこれからも、たゆまぬ変革と挑戦を続けながら前進していきます。

(インタビューは2024年4月に実施)