環境

TNFD提言に基づく情報開示

はじめに

TNFDとは

自然関連財務情報開示タスクフォースのTNFD Adopterのロゴデータです。

TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース:Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)は、国際的に自然の劣化への危機感やその回復の重要性が増していることを背景に、企業における自然関連のリスク管理やその開示の枠組みを構築することを目的に2021年に発足したグローバルなイニシアチブです。2023年9月にはタスクフォースから提言が提示され、企業の戦略的なリスクに自然関連課題が関わることから、企業に対して事業を通じた自然への依存・インパクト、リスク・機会を把握・開示することを推奨しています。
NGKグループは2024年1月、TNFDの「TNFD Early Adopter※1」として早期の開示を宣言、2024年7月に初回開示を実施しており、今回はさらなる開示情報の充実に取り組みました。

  1. ※1TNFD Early Adopter:2025年会計年度までに開示を始める企業・団体(2024年1月時点 46カ国320社、うち日本企業は80社)

自然と生物多様性に対するNGKグループの考え方

私たちの社会や経済活動は、自然やその恵みに依存することで成り立っていますが、一方でそれらの活動が自然に対して負のインパクトを与えることなどを原因としてその自然は世界的に急速に劣化していると言われています。これに対する危機感や自然の回復の重要性の認識が高まる中、2022年に開催された国連生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)では、世界の共通目標として「昆明・モントリオール生物多様性枠組」が採択され、2030年までに「生物多様性の損失を止め、反転させるための緊急の行動をとる」という「ネイチャーポジティブ」の目標が掲げられています。
NGKグループ環境ビジョンでは「自然との共生」を重要な課題の一つに定め、生態系への環境負荷を最小限に抑制するとともに啓発活動を通じて一人ひとりの意識を高め自然との共生を図ることを掲げています。自然関連課題は事業そのものに影響を及ぼす可能性があるため、バリューチェーン全体を通じて事業がどのように自然に依存、インパクトを与えているのかを把握し、管理することが重要と考えています。

開示の目的

NGKグループはTNFD開示を通じて事業と自然の接点を明らかにし、自然への依存・インパクト、リスク・機会の重要性を把握し、積極的に開示することで社会やステークホルダーの期待に応えます。また、開示を通じてグループ全体の自然関連の取り組みを推進することでNGKグループ環境ビジョンに掲げる「自然との共生」の実現に寄与し、持続可能な社会の実現に貢献します。

LEAPアプローチの概要

TNFD提言では自然関連の依存・インパクト、リスク・機会の評価手順としてLEAPアプローチに基づく分析を推奨しています。LEAPアプローチはLocate、Evaluate、Assess、Prepareのプロセスで構成されており、各プロセスにおいて下表の内容を実施します。

LEAPアプローチの実施内容
Locate
自然との接点の発見
Evaluate
依存・インパクトの診断
Assess
重要なリスク・機会の評価
Prepare
対応・報告のための準備
  • バリューチェーンで自然への依存・インパクトが重要な分野の検討
  • 自社拠点、バリューチェーンで依存・インパクトが重要な分野の活動場所や関連する生態系の把握
  • 優先地域(生態学的に影響を受けやすい地域、依存・インパクトが重要な地域)の評価
  • 自社拠点、バリューチェーンの各場所における生態系サービスへの依存、与えているインパクトの特定
  • 重要な依存・インパクトの評価・測定
  • 依存・インパクトの内容を踏まえた自然関連リスク・機会の特定・重要性評価
  • 特に優先度の高いリスク・機会の特定
  • リスクや機会の管理プロセスの検討
  • 評価内容を踏まえた対応戦略の検討
  • 目標設定方法の検討
  • 情報開示内容の検討

TNFD開示提言項目と今回の開示範囲

TNFD開示の提言項目に対して、2023年度はNGKグループの事業や生産拠点について自然との接点を把握し、2024年度は製造段階の依存・インパクトについて評価しました。これらの取り組みの結果については、TNFDの開示推奨項目である一般要件と4つの柱(ガバナンス、戦略、リスクとインパクトの管理、測定指標とターゲット)に沿って参考にしたLEAPアプローチとともに開示、説明します。

TNFD開示提言項目と今回の開示範囲
○:開示提言を満たす項目、 △:開示提言を部分的に満たす項目
TNFD開示提言項目 参考にした
LEAPアプローチ
今回の
開示範囲
ガバナンス A.取締役会の監督       P ○
B.経営者の役割       P ○
C.ステークホルダーに関する人権方針、エンゲージメント活動       P ○
リスクとインパクトの管理 A(i).自社の事業における依存・インパクト、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けのプロセス   E A   ○
A(ii).バリューチェーンにおける依存・インパクト、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けのプロセス   E A   ○
B.依存・インパクト、リスク・機会を管理するためのプロセス   E A   ○
C.組織のリスク管理への統合     A   ○
戦略 A.依存・インパクト、リスク・機会の特定   E A   △※
B.依存・インパクト、リスク・機会がビジネスモデル、戦略、財務計画に与えるインパクト       P △
C.シナリオを考慮した戦略のレジリエンス     A P  
D.優先地域の基準を満たす資産や活動場所 L E A   △※
測定指標とターゲット A.リスク・機会の測定指標     A    
B.依存とインパクトの測定指標   E A   ○
C.ターゲットとパフォーマンス       P ○
  • ※【主要なバリューチェーンにおける自然への依存・インパクトの評価結果】表の主要なバリューチェーンにおける「製造」部分のみ

一般要件

TNFD提言では、開示の全体を通じて適用される6つの一般要件の説明を求めています。この一般要件に対してNGKグループの考え方は以下の通りです。

一般要件 NGKグループの考え方
マテリアリティの適用 NGKグループはダブルマテリアリティの考え方に基づき、グループの限りある経営資源を効率的かつ効果的に活用し、NGKグループとステークホルダー双方に対する価値創造を最大化することを目指して環境・社会課題の解決に取り組んでいます。TNFDの対応についても、ダブルマテリアリティの考え方で評価・開示を行っています。
開示のスコープ NGKグループの全事業を対象に、自然との関連性(依存・インパクト、リスク・機会)を分析し、開示しています。なお、NGKグループ生産拠点については各拠点の場所の特性を考慮した詳細な分析を実施し、その他のバリューチェーンについては現段階では概要を把握しています。
自然関連課題がある地域 NGKグループの主な生産拠点に対し、場所の特性を踏まえTNFDの要注意地域に該当するかを評価し、優先地域を特定しています。加えて、特に重要な自然への依存・インパクトがある拠点については先行して対応を進めています。水リスクは先行して対応を進めるべき対象と考え「NGKセラミックスメキシコ」に関して詳細な検討を行いました。
他のサステナビリティ関連の開示の統合 NGKグループでは、2050年の「ありたい姿」を達成するために「なすべきこと」の1つに「ESG(環境・社会・ガバナンス)経営」を掲げています。その実現のために取り組むべき自然関連課題として、気候変動への対応、資源循環の推進、環境汚染の防止、生物多様性の保全と再生を挙げています。NGKグループではTCFD提言に基づく開示を実施済みであり、本開示においては一部結果を参照しています。TCFDおよびTNFDに基づく開示については、両者の内容に重複する領域が存在することから、今後はこれらを整理し、統合した形での開示を目指すことを検討します。
考慮する時間軸 TNFDの開示において考慮した時間軸については、短期:2~3年後、中期:2030年、長期:2050年を想定しています。
先住民族、地域社会と影響を受けるステークホルダーとのエンゲージメント NGKグループでは、「NGKグループ人権方針」を策定しており、その方針はNGKグループのすべての役員と従業員に適用し、サプライヤーに対しても遵守を期待しています。先住民族や地域社会、影響を受けるステークホルダーの権利を侵害しないよう、「NGKグループ行動規範」「NGKグループサプライヤー行動規範」にて人権に関わる取り組みを定めています。
またNGKグループは、人権デューディリジェンス、救済措置の仕組みを構築し、これを実践する過程におけるステークホルダーとのエンゲージメントの重要性を認識しています。

ガバナンス

取締役会の監督、経営者の役割

取締役会決議において、「NGKグループ環境ビジョン」でカーボンニュートラル、循環型社会、自然との共生を掲げ、NGKグループのマテリアリティとして「生物多様性の保全と再生」を特定しています。具体的な取り組みについては、取締役社長が委員長を務め、各委員会委員長や本部長等から構成されるサステナビリティ統括委員会において「環境行動5カ年計画」を策定し、管理指標と年度ごとの達成目標により進捗を管理するとともに、バリューチェーンにおける活動も推進しています。TNFD提言に基づく情報開示はサステナビリティ統括委員会で審議され取締役会に報告されます。これを含むサステナビリティ統括委員会の活動内容は、年1回以上取締役会に報告すると定めています。

サステナビリティ推進体制
サステナビリティ推進体制図です。サステナビリティ統括委員会が中心となり各委員会と連携し取り組んでいます。サステナビリティ統括委員会の活動内容は取締役会に報告されます。

ステークホルダーに関する人権方針・エンゲージメント活動

NGKグループでは企業活動における人権の尊重について、「NGKグループ企業行動指針」および「NGKグループ行動規範」と「NGKグループサプライヤー行動規範」に定めています。さらに人権に関する個別の方針として「NGKグループ人権方針」に基づいて、取り組みを推進しています。この「NGKグループ人権方針」に従い、人権デューディリジェンスの仕組みを構築し、事業活動が人権に対して及ぼす負の影響を特定し防止・軽減する取り組みを進めること、また事業活動が人権に対して負の影響を及ぼしたことが明らかになった場合や、及ぼしたことが疑われる場合は、関係者と誠実に対話し、適切かつ効果的な救済に取り組むこととしております。人権尊重の取り組みは、人材統括部所管取締役、サステナビリティ推進部所管取締役、人材統括部長、サステナビリティ推進部長および各部門長が内容や重要性に応じ関連の委員会や関連部門と連携・協働しながら推進しています。また人事部門の所管取締役が実践状況を定期的に取締役会に報告し、取締役会が実践状況を監督しています。

リスクとインパクトの管理

依存・インパクト、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けのプロセス

NGKグループの事業のバリューチェーンにおける自然関連の依存・インパクト、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けのプロセスは以下の通りで、下表のプロセスの詳細内容は、「戦略」パートの該当箇所で説明します。

プロセス 内 容
依存・インパクトの全体把握、および特定
  • 事業のバリューチェーンにおける依存・インパクトの整理
  • 重要な依存・インパクトの特定
  • 優先地域の基準を満たす活動場所の評価および選定
  • 製品およびサービスによるポジティブインパクトの整理
重要な自然関連のリスク・機会の特定
  • 重要な自然関連のリスク
  • 重要な自然関連の機会

依存・インパクト、リスク・機会を管理するためのプロセス、および組織のリスク管理への統合

サステナビリティ統括委員会は、NGKグループにおける自然関連の依存・インパクト、リスク・機会を管理しています。また、特にリスクについては、全社的なリスク管理に従い、リスク統括委員会が定めるリスクマネジメント体制およびプロセスに沿って対応に当たります。

戦略

本項では、前項「リスクとインパクトの管理」で定めた、依存・インパクト、リスク・機会の特定・評価・優先順位付けのプロセスに則り、具体的な検討内容を説明します。

依存・インパクトの全体把握、および特定

事業のバリューチェーンにおける依存・インパクトの整理

NGKグループが属する産業分野の自然への依存・インパクトを確認するために、評価ツールであるENCORE※2を利用しました。利用においては事業上重要と判断した自然への依存における供給サービスの「非生物資源」を追加し評価しました。その結果を踏まえ、主要な事業のバリューチェーン(調達・製造・物流)における依存・インパクトのレベルを整理しました。

  1. ※2ENCORE:NGOのGlobal Canopy、UNEP-FI(国連環境計画・金融イニシアチブ)およびUNEP-WCMC(世界自然保全モニタリングセンター)らが開発した、金融機関や企業等が業種別の自然への依存やインパクトの重要性を把握するためのツール

主要なバリューチェーンにおける自然への依存・インパクトの評価結果(NGKグループの事業に類似した産業分野の評価)

自然への依存

バリューチェーンにおける自然への依存やインパクトの評価結果を図示しています。バリューチェーン内の調達、製造、物流という主要なバリューチェーンごとに事業の依存・インパクトを算出し全体像を示しています。

自然へのネガティブなインパクト

バリューチェーンにおける自然への依存やインパクトの評価結果を図示しています。バリューチェーン内の調達、製造、物流という主要なバリューチェーンごとに事業の依存・インパクトを算出し全体像を示しています。

これらの評価の結果から、主に以下の点を認識しました。

調達:

自然への依存について、金属の採掘・精錬、非金属鉱物の採取・採掘のプロセスにおいて、水資源および非生物的資源といった供給サービスや水質浄化および降雨パターンの調整などの調整・維持サービスに依存しています。自然へのネガティブなインパクトについては、淡水および海洋生態系利用や資源利用、土壌・水質汚染物質およびかく乱による汚染などのインパクトを発生している可能性があります。

製造:

自然への依存について、水資源や非生物的資源といった供給サービスに若干依存しています。自然へのネガティブなインパクトについては、温室効果ガス排出による気候変動や土壌・水質汚染物質による汚染などのインパクトが発生している可能性があります。

物流:

自然への依存について、製品や原材料の輸送に伴い燃料など非生物的資源といった供給サービスに依存しているほか、輸送インフラ維持や災害リスク軽減に関わる洪水制御・暴風緩和機能などの調整・維持サービスにも依存しています。自然へのネガティブインパクトについては、かく乱による汚染や外来種の導入による侵略的外来種などのインパクトを発生している可能性があります。

この認識を踏まえ、今回の開示では「製造」について重要な依存・インパクトを特定します。

重要な依存・インパクトの特定

主要なバリューチェーンにおける自然への依存・インパクト評価結果の「製造」における重要度がVH、H、Mの項目につき、各種文献※[参考文献(1)]、生産拠点環境データ、事業における対策状況を加味した上で、NGKグループの事業活動に照らして重要度が高いと考えるべき依存・インパクトに絞り込みました。その過程で、事業特性において関連性が低いもしくは潜在的に発生しうるが既存の対策により十分に低減されていると考える項目は重要度が低いと判断しています。
下図では、事業活動ごとの「重要な依存」、「重要なインパクト」と、関連する自然(TNFDで提示される「環境資産」)および、それらに対する「NGKグループ以外からのインパクト」の関係を整理しました。

  • ※参考文献(1)
    CDP water Impact Index
    世界銀行“EHSガイドライン”
    欧州委員会“Ecodesign for Sustainable Products Regulation - preliminary study on new product priorities”
    European ceramic industry association “Ceramic roadmap to 2050”
NGKグループの製造段階における重要な自然への依存・インパクトおよび潜在的なインパクト、関連する自然・環境資産と外部要因
NGKグループの製造段階における事業ごとの重要な依存、重要なインパクトと、関連する自然に対するNGKグループ以外からのインパクトの関係を整理した図です。

この結果、NGKグループのバリューチェーンのうち「製造」において「重要な依存」と「重要なインパクト」を、以下の通り特定しました。

重要な依存
  • 水資源
  • 洪水制御、暴風雨緩和機能
重要なインパクト
  • 水利用
  • 温室効果ガス排出

優先地域の基準を満たす活動場所の評価および選定

TNFD提言では「要注意地域」と「重要地域」の組み合わせを「優先地域」としています。
「要注意地域」とは、事業による依存・インパクトの有無に関わらず生態学的に影響を受けやすい地域のことで、例えば多くの希少種や固有種の生息地や手つかずの自然が残っている地域、水ストレスが高い地域などが含まれます。
「重要地域」とは、事業で重要な自然関連の依存・インパクトがある地域のことで、企業にとって自然との関わりが特に強いと考えられる地域です。
NGKグループの国内外の生産拠点39拠点を対象に、「要注意地域」の評価、「重要地域」の評価をそれぞれ行った上で「優先地域」を選定しました。そして、優先地域にある拠点は、優先的に対応すべき対象としました。

「要注意地域」の評価

TNFD提言は、「要注意地域」の視点として「生物多様性の重要性/生態系の十全性の高さ」「生態系の十全性の低下」「水の物理的リスク」を挙げており、各視点に対して関連するそれぞれの指標を使用し対象拠点を評価しました。

要注意地域の視点 使用した指標
生物多様性の重要性/
生態系の十全性※6の高さ
  • 保護地域※3やKBA※4との500m圏内での近接状況
  • 保全優先度※5 ※[参考文献(2)]
  • 生態系の完全性指数※7 ※[参考文献(3)]
生態系の十全性の低下
  • ヒューマンフットプリント※8の変化※[参考文献(4)]
水の物理的リスク
  • 水ストレスの高さ※[参考文献(5)]
  • 水質汚濁の程度(表流水の水質の総合指数)※[参考文献(6)]
  • 水災リスク※[参考文献(7)]
  1. ※3保護地域:地域や国、国際条約などによる保護地域
  2. ※4KBA (Key Biodiversity Area):生物の多様性保護の面で重要な地域で、標準化された科学的基準や閾値に基づいて特定された地域
  3. ※5保全優先度:その場所を開発した時の、生物種の損失リスクの高さを指標化したもの
  4. ※6生態系の十全性:生態系の健康状態を指す指標であり、都市化が進んでいる地域は生態系の十全性が低い
  5. ※7完全性指数:その場所の生態系が、人間活動が生じる前の自然であった状態と比較してどの程度残っているかを示す指標
  6. ※8ヒューマンフットプリント:様々な人間活動(都市開発、農地開発、輸送など)を統合した環境に対する影響の強さ
  • ※参考文献(2)
    株式会社シンク・ネイチャーの生物種の分布に関するビッグデータから、場所ごとの生物種の生息種数、各生物種の絶滅危惧、各生物種の生息域の広さにより算出
  • ※参考文献(3)
    IUCNのハビタットマップ(土地利用状況、改変に応じた損失度合い)と、自然林の分布をもとに、株式会社シンク・ネイチャーにて算出
  • ※参考文献(4)
    Mu, H., Li, X., Wen, Y., Huang, J., Du, P., Su, W., ... & Gang, M. (2022). A global record of annual terrestrial Human Footprint dataset from 2000 to 2018. Scientific Data, 9(1), 176.
  • ※参考文献(5)
    WRI(世界資源研究所)“AqueductのBaseline Water Stress“
  • ※参考文献(6)
    WWF Water Risk Filter “Surface water quality index”
  • ※参考文献(7)
    TCFDのリスク機会評価時に使用したハザードマップの結果
生物多様性の重要性/生態系の十全性の高さ

生物多様性の重要性が高い地域とは、希少種や固有種が多く生息し生態系のバランスが保たれているなど生物多様性の価値が高い地域を指します。また、生態系の十全性が高い地域とは、人為的な改変が少なく自然環境が良好な状態で維持されている地域を指します。希少種・固有種の多さに基づく保全優先度の指標を使用して生物多様性の重要性を評価するとともに生態系の完全性指数を使用して生態系の十全性を評価しました。その結果、保全優先度が高い地域に位置する38拠点を生物多様性の価値が高い要注意拠点としました。この要注意拠点には、保護地域(IUCNカテゴリーⅣ※9:種と生息地管理地域)または生物多様性重要地域と500m圏内で近接している日本や欧州の6拠点や、生態系の十全性が高い地域に所在するメキシコなどの3拠点も含まれています。
これらの地域では事業活動が自然環境に与えるネガティブなインパクトによって生物多様性や生態系への負荷が懸念されます。しかしながら、汚染物質の排出など生物多様性に影響を与える可能性のある要因について、NGKグループの事業活動においては既存の環境対策により要注意拠点が周辺の自然に及ぼすネガティブなインパクトは限定的であると考えます。

  1. ※9IUCNカテゴリーⅣ:世界や国・地域などのレベルで重要な植物・動物種や生息地の保護や回復を目的とした保護地域のカテゴリー
生態系の十全性の低下

生態系の十全性が低下している地域とは、自然環境の劣化が進行し環境の脆弱性が高く外部への抵抗力が低い地域です。人間の活動が自然環境に与える影響を示す指標であるヒューマンフットプリントの変化の指標は、過去から現在にかけて値が増加している場合、自然環境が大きく変化し生態系の十全性が低下していることが考えられます。そこで生産拠点付近についてヒューマンフットプリントの変化を確認し、主にアジア・欧州・北米を中心とした12拠点を十全性が低下している要注意拠点としました。

水の物理的リスク

水の物理リスクを、水ストレス、水質汚濁、水災リスクの3つの指標で評価を行いました。

  • 水ストレスが高い地域は、流域の水需要量が水供給量を上回る地域であり、生態系に必要な水の供給が不足して湿地や河川の乾燥や生物の生息環境の悪化など自然環境への影響が深刻化する可能性があります。AqueductのBaseline Water Stressにて水ストレスの高さを評価した結果、アジア・欧州・北米などの12拠点を水ストレスの高い要注意拠点としました。
  • 水質汚濁がある地域は、水質の悪化が地域の生態系や住民の生活環境に影響を及ぼす可能性があります。Surface water quality indexにて表流水の水質汚染度指数(BOD(Biochemical Oxygen Demand:生物化学的酸素要求量)や電気伝導率、窒素などの栄養源の指数)の高さを評価した結果、アジア・欧州・北米の主に都市部に位置する26拠点を水質汚濁の要注意拠点としました。なお、NGKグループでは水質などの汚染防止に関しては地域の法令や条例の基準を遵守するだけでなく、さらに上乗せ基準としての自主的な基準を設定しており、水質汚濁に関してのネガティブなインパクトは限定的と考えています。
  • 水災リスクが高い地域は、河川氾濫や高潮などのリスクが高く、災害時に土壌流出や水質悪化、生物の生息地破壊などが発生する可能性があります。水災リスクは気候変動に起因する物理的リスクの一つとしてTCFDのリスク機会評価時に使用したハザードマップを確認した結果、日本を含むアジアの8拠点を水災リスクの高い要注意拠点としました。
「重要地域」の評価

TNFD提言では「重要地域」を事業で重要な自然関連の依存・インパクトがある地域としており、前述の「重要な依存・インパクトの特定」から、NGKグループの製造段階においては、「重要な依存」を水資源および洪水制御・暴風雨緩和機能、「重要なインパクト」を水利用および温室効果ガス排出としました。
「水資源への依存および水利用のインパクト」は、水ストレスが高い地域において依存やインパクトが高くなると考え、水ストレスが高い地域に位置する12拠点を水資源への依存および水利用のインパクトの重要拠点としました。
「洪水制御、暴風雨緩和機能への依存」は、生態系の十全性が低下している地域や水災リスクが高い地域で依存が高いと考え、これらの地域に位置する19拠点を洪水制御、暴風雨緩和機能への依存の重要拠点としました。
「温室効果ガス排出のインパクト」は、拠点の地域を問わず重要な課題であると考えていることと、すでにTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の下で検討および対応を進めていることから、今回のTNFD開示における検討対象から除外しました。

「優先地域」の選定

これまでの「要注意地域」の評価と「重要地域」の評価を組み合わせ、「優先地域」を選定しました。その結果、メキシコ、ベルギー、中国、日本などの22拠点を優先拠点として対応することとしました。今後は選定した各拠点に対し、適宜詳細な調査を実施していきます。今回の開示では先行事例として、NGKセラミックスメキシコにおける水ストレス評価の結果を末尾で説明します。

製品およびサービスによるポジティブインパクトの整理

ここまでは主にNGKグループの事業や拠点の場所の特性における自然に対する「ネガティブ」なインパクトについて説明しました。一方で、NGKグループは事業を通じて自然に対して「ポジティブ」なインパクトもあると考えます。そこでTNFD提言における自然の変化の要因を参照しNGKグループの主な製品やサービスにおける自然へのポジティブインパクトを整理した結果について以下に示します。

事業内容 主な製品やサービス 土地
利用変化
気候変動 資源利用 汚染
陸域生態系の利用 温室効果
ガス排出
非生物資源の抽出 固形
廃棄物
温室効果
ガス以外の大気汚染
土壌汚染 水質汚染
エンバイロメント事業セグメント 自動車関連事業 排ガス浄化用セラミックス ●   ● ● ● ● ●
NOxセンサー ●   ● ● ● ● ●
産業プロセス事業 加熱装置、耐火物製品 ● ● ● ●      
膜分離装置   ●   ●     ●
高温ガス集塵装置 ●   ● ● ●    
低レベル放射性廃棄物用処理装置   ●   ● ●    
デジタルソサエティ事業セグメント SPE事業 半導体製造装置用セラミックス       ●      
電子デバイス事業 EnerCera   ● ● ●      
PEC事業 絶縁放熱回路基板   ●   ●      
金属・金型事業 金属・金型製品   ● ● ●      
エネルギー&インダストリー事業セグメント エナジーストレージ事業 NAS電池 ● ● ● ●      
ガイシ事業 がいし ● ● ● ●      
  • ※NAS電池は2025年10月に販売活動終了

一般的にセラミック製品の特徴は耐熱性、耐食性、耐久性が高く長寿命のため、ほかの素材を使用した場合と比較して原材料の使用量や廃棄物の排出量を削減することが可能です。この特徴を生かしたNGKグループの主な製品およびサービスは、自然へのネガティブなインパクトを低減することに貢献できると期待しています。
例えば、自動車排ガス浄化用セラミックスは超薄壁化による製品の高性能化を実現しており、従来の製品と比較して自動車の排ガスに含まれる有害物質を効果的に浄化できます。

重要な自然関連のリスク・機会の特定

TNFD提言のリスク・機会の分類を参照したうえで、現時点で想定されるリスク・機会について整理しました。
リスクについては、まず発生可能性と影響度を想定し、次に定性的に優先順位付けを行いました。その結果として重要度が高いと判断したリスクと想定される対応策をまとめました。
機会については、発生する可能性などの想定が困難と考えたため、製品およびサービスによるポジティブインパクトの結果などを参考として現時点で想定される機会をまとめました。また温室効果ガスの排出に関するリスク・機会については、TCFD提言に基づく情報開示にて整理しているためTNFD開示のリスク・機会の検討からは除外しました。

重要な自然関連のリスク
リスク分類 依存・インパクト リスク 時間軸 対応策
移行 政策 インパクト
製造工程での水資源使用
  • 水資源の利用を制限する政策・条例による水価格高騰、操業停止
中期~
  • 関連規制のモニタリング
  • 拠点の立地状況に応じた水利用の効率化取り組みの推進
  • ガイドラインに基づく水利用の適正化の取り組みの推進
インパクト
鉱物資源の採掘・採取時の陸・淡水・海洋生態系の改変
  • 自然保護のための、非金属鉱物・金属の採掘・開発制限、許認可の困難化による原材料の不足・価格高騰
中期~
  • 関連規制や原材料の需給動向のモニタリング
市場 インパクト
原材料生産
  • 持続可能原材料(リサイクル材や認証原材料など)の需要増加に伴う価格高騰
短期~
  • 原材料の市場・需給動向のモニタリング
技術 インパクト
製造工程での水資源使用
  • 製造工程での水利用効率向上のための技術・設備導入によるコスト増
短期~
  • 技術動向のモニタリング
  • 拠点の立地状況に応じて優先順位付けしたうえでの水利用効率化取り組みの推進
評判
賠償責任
インパクト
製造工程の大気汚染物質排出
  • 突発的な事故などによる大気汚染物質の排出に対する地域コミュニティからの批判
  • 罰金などの法的請求によるコスト増
短期~
  • 法令や条例に基づく測定や、重要項目に対する常時モニタリングの実施、規制値の遵守
インパクト
製造工程の水質汚染物質排出
  • 突発的な事故などによる水質汚染の発生に対する地域コミュニティからの批判
  • 罰金などの法的請求によるコスト増
短期~
  • 法令や条例の排水基準への自主的な上乗せ基準の設定、それに基づく警報・遮断の設定
物理的 急性 依存
製造工程の水資源供給サービス、水流調整
  • 水源側での水資源の汚染や干ばつなどによる急性の水不足の発生、操業停止
短期~
  • 拠点の立地状況に応じた水利用の効率化に向けた取り組みの推進
  • ガイドラインに基づく水利用の適正化に向けた取り組みの推進
依存
製造工程の洪水制御・暴風雨緩和機能
  • 周辺地域の自然の劣化による洪水や暴風雨の激化
短期~
  • 主要拠点における将来も含めた水災リスクの評価、BCPの推進
依存
サプライチェーン上流における洪水制御・暴風雨緩和、降雨パターン調整機能
  • 周辺地域の自然の劣化による洪水や暴風雨の激化に伴う調達網への影響
短期~
  • サプライチェーン上流におけるリスク評価、サプライチェーンも含むBCPの検討
  • 代替調達方法の検討
慢性 依存
製造工程での水資源供給サービス、水流調整
  • 地域の経済発展による需要の増加や気候変動の影響による慢性的な水不足の発生、水コストの増加、操業の縮小
中期~
  • 将来も含めた水需給リスクの評価
  • 拠点の立地状況に応じた水利用の効率化に向けた取り組みの推進
  • ガイドラインに基づく水利用の適正化に向けた取り組みの推進
依存
サプライチェーン上流における水資源供給サービス、水流調整
  • 水不足の発生による原材料生産への影響
短期~
  • サプライチェーン上流における水需給リスクのリスク評価
重要な自然関連の機会
分類 ポジティブインパクト 機会 時間軸
市場/製品・サービス
  • 排水・排気の浄化による水質・大気汚染物質の排出の低減
  • 資源の有効利用(レアメタル回収、歩留まり向上)による採掘時の自然へのネガティブインパクトの軽減
  • 膜分離装置(CO2分離)、高温ガス集塵装置、耐火物製品の需要増加
中期~
  • 長寿命、小型化、資源のリサイクルによる廃棄物量減
  • EnerCera(メンテナンスフリー・小型化による廃棄物削減)、焼成用セッター(長寿命による廃棄物削減)の需要増加
中期~
  • 希少金属不使用による採掘量の削減、採掘時の自然へのネガティブインパクトの軽減
  • NAS電池の需要増加(リチウム電池と比較して希少金属不使用)
中期~
資源効率/評判
  • 製造時の各種ネガティブインパクトの低減
  • 水使用効率向上、廃棄物・汚染物質の排出削減に向けた取り組みによるコスト削減、および評判の向上
中期~
評判
  • 資源採掘時における土地改変や汚染などのインパクトの低減
  • リサイクル金属や認証原材料の使用による原材料採取・生産時におけるネガティブインパクト低減に伴う評判向上
中期~
  • 地域の自然・生態系の保全
  • 社有地での生態系保全の取り組み、生態系に配慮した緑地の整備などの取り組みによる評判向上
中期~
  • ※NAS電池は2025年10月に販売活動終了

測定指標とターゲット

TNFD提言の「測定指標とターゲット」では、自然関連の依存・インパクト、リスク・機会を評価して管理するための測定指標とターゲットの開示を推奨しています。このうち測定指標についてNGKグループでは、事業活動に伴う各環境データを把握し開示しています。また、ターゲットやパフォーマンスについては、「第5期環境行動5カ年計画」を2021~2025年度における環境活動の目標管理として推進しています。
これらを踏まえTNFD提言にて推奨しているグローバル中核開示指標に沿って、現時点で整理している指標は以下の通りです。

測定指標
番号
自然の変化の要因 指標 測定指標内容(2025年8月時点)
- 気候変動 温室効果ガス排出量 環境データ集「温室効果ガス(GHG)排出量」を参照
C1.0 陸/淡水/海洋利用の変化 総空間フットプリント 組織が監督権を有する監督下、管理下にある総表面積
4.1km2(NGKグループが管理する敷地面積)
C1.1 陸/淡水/海洋の利用変化の範囲 自主的に保全を行った陸域面積
0.1km2(自然共生サイトの認定を受けたNGK みんなの森みずなみの面積)
C2.0 汚染/汚染除去 土壌に放出された汚染物質の種類別総量 土壌への放出なし
C2.1 廃水排出 排水先別の排水量は環境データ集「水資源の保全」を参照
C2.2 廃棄物の発生と処理 廃棄物量は環境データ集「廃棄物管理」を参照
C2.3 プラスチック汚染 プラスチック廃棄物量は環境データ集「廃棄物管理」を参照
C2.4 温室効果ガス(GHG)以外の大気汚染物質総量 大気へ放出されたPRTRおよびVOCの排出量は環境データ「化学物質管理」を参照

今後の取り組み

TNFD開示提言項目と今回の開示範囲で記載した通り、原材料の採取採掘などのバリューチェーン上流における自然への依存・インパクトについて詳細検討を行う予定です。また、シナリオを踏まえた自然関連のリスク・機会の精査も検討していきます。さらに、測定指標とターゲットについてはTNFD提言のグローバル中核開示指標を参照しながらデータの収集やターゲットについての検討を深め、TNFD提言に基づいた全項目の開示に向けて内容を充実させていきます。

参考

「優先地域」に関する詳細評価 NGKセラミックスメキシコにおける水ストレス評価

選定した「優先地域」の詳細評価としてNGKセラミックスメキシコを参考事例として示します。NGKセラミックスメキシコは水ストレスが高い地域に位置し、主に地下水を利用しています。一般的に地下水は表流水と比較して水資源に関する水位変動などを把握しづらいですが、株式会社地圏環境テクノロジーが有する水循環を可視化するシミュレーションモデル“GETFLOWS”を用いることで、取水流域の状況や水使用による周辺地域への影響の評価が可能となり、以下のプロセスに沿って詳細評価しました。このうち、取水のインパクト評価、および水ストレスの評価について説明します。

評価プロセス
評価プロセス 主な内容
水循環モデルの構築 気象、地形、土地利用や土地被覆、地質、水利用のデータを組込んだ水循環のシミュレーションモデルを構築
流域の特定 シミュレーションより、取水する地下水の集水域、取水の影響範囲を特定
取水のインパクト評価 地下水の取水による、周辺への影響の範囲・程度を評価
水ストレスの評価 集水域および流域における水ストレスを評価

NGKセラミックスメキシコにおける取水のインパクト評価

NGKセラミックスメキシコの取水による周囲の地下水位に及ぼすインパクトを把握するために、「取水が実施されている場合」と「取水が実施されていない場合」をシミュレーションで再現し地下水位の差分を確認しました。その結果、NGKセラミックスメキシコ(図☆)を中心に最大で0.15m程度の地下水位の低下があることと、おおむね半径1km程度の範囲で0.1m程度低下があることが分かりました。一方で、当該地域における地下水位モニタリングデータより、季節変動の幅が2~6mであることも分かりました。これらの結果を踏まえると、NGKセラミックスメキシコの取水による地下水位の低下のインパクトはおおむね限定的であると考えました。

NGKセラミックスメキシコの取水による周囲の地下水位に及ぼすインパクトを把握するためインパクト評価図です。NGKセラミックスメキシコを中心とした周囲地下水位の変化を表しています。
拠点取水時の周囲地下水位の変化

NGKセラミックスメキシコにおける水ストレスの詳細評価

上記の取水のインパクト評価の結果から、NGKセラミックスメキシコの取水による地下水位への影響は限定的であることが分かりました。
一方で、この地域で中長期的な事業活動の継続を目的に水資源管理の必要性を把握したいと考え、水ストレスの詳細評価を実施しました。評価にあたっては、「集水域」と「流域」の観点から該当地域の水需要量や水資源量に関する文献などをもとに分析を行いました。なお、本評価はNGKセラミックスメキシコの実際の取水量を対象としたものではなく、立地する地域全体の水資源状況を評価したものです。

NGKセラミックスメキシコの集水域(点線枠内)と流域(黄色線枠内)の水ストレスを評価するために地下水と地表水の流動経路を3次元的にシミュレーションしました。その結果、まずNGKセラミックスメキシコは拠点西側の山地部から、つまり下図の点線枠内の矢印、西から東に向かって浸透する水を取水していることが分かりました。次に水ストレスを評価したところ、集水域については水ストレスのひっ迫度※10は5段階中の3段階、NGKセラミックスメキシコや下流域を含む広域な流域については水ストレスのひっ迫度は4段階であることが分かりました。

  1. ※10水ストレスのひっ迫度:WRI(世界資源研究所)が提供する「Aqueduct Water Risk Atlas」における水ストレスの基準
NGKセラミックスメキシコの集水域と流域の水ストレスを評価するために地下水と地表水の流動経路を3次元的にシミュレーションした評価図です。水の流動経路および集水域での水の流れなどを表しています。
拠点の流域における水の流動経路および集水域

NGKグループでは本シミュレーションを実施する以前から主な製造拠点の水リスク評価を実施しており、NGKセラミックスメキシコは水ストレスが高い地域と認識し、既に工場内で利用した水の再利用などを実施しております。一方で、近年国際的に流域範囲での水資源管理が主流化していることも踏まえ、今後は本調査結果と実際の取水データを照らし合わせながら、集水域だけでなく流域の水ストレス低減につながる取り組みの検討を進めていきます。