社内対談
研究開発・商品開花

NGKグループビジョン実現に向けた研究開発・商品開花の戦略と進捗

「NGKグループビジョン Road to 2050」の通過点となる2030年の目標に掲げた、「New Value 1000」(NV1000)。
新規事業で売上高1,000億円以上を目指すというこの施策のポイントである「研究開発」「商品開花」の戦略や具体的な取り組み、進捗について、技術部門、マーケティング部門のリーダーが語りました。

時代の変化に合わせて私たちも変わる

-「NGKグループビジョン Road to 2050」の策定から2年が経過しました。

代表取締役副社長 技術統括 丹羽 智明の写真

丹羽 2021年にNGKグループビジョンを策定し、進む方向を示したことでグループ全体の軸が定まりました。現場からも、「ビジョンに基づいてチャレンジします」といった声が聞かれるようになるなど、社内の雰囲気がかなり変わってきたと思います。

岩崎 世の中の変化のスピードはますます速くなっています。コロナ禍を契機とした社会変化はもちろん、緊迫するウクライナ情勢やエネルギー問題、最近では生成AIが話題を振りまいています。そのようなめまぐるしい変化への対応を意識し、NGKグループビジョンで掲げる変革に向けてさまざまな挑戦をスタートさせてきた、そんな2年間だったと思います。

丹羽 2022年4月には、事業構造転換の重要施策であるNV1000を牽引するべく、マーケティング機能を担うNV推進本部を新設しました。同本部を起点にお客さまとのコミュニケーションの機会が増え、市場が求めるものや私たちがお客さまに提供できる価値をしっかり見据えていかなければ、今後の成長はないという現実を実感しています。当社は、長らく「技術オリエンテッド」でやってきた会社で、「いいモノをつくれば売れるはず」というプロダクトアウト的な感覚が根強いので、そこを変えていかなければなりません。

事業化の成功確度を上げるために開発・事業化委員会、NVゲート推進会を新設

- 新たに開発・事業化委員会を立ち上げました。

代表取締役副社長 NV推進本部長 岩崎 良平の写真

岩崎 開発・事業化委員会は、社内の研究開発及び事業化プロセスについての方針策定を担う組織で、丹羽副社長が委員長、私が副委員長を務めています。

丹羽 NGKグループは素晴らしいモノづくりの技術を持った企業集団です。しかしながら、優れた技術があるから世の中に貢献できるかというとそうではなく、これまで市場分析が足りず、期待通りの事業に育たない例もありました。そこで、「事業化をゴールとする開発を行う」という方向性を明確に打ち出した委員会を立ち上げたわけです。重要なのは技術の追究ではなく、技術の社会実装なのですから。

岩崎 同時に、開発・事業化委員会に至る前のプロセスとして、NVゲート推進会を始動させました。次の開発段階に移るためには何が不足しているのか、課題にはどう対応するのかといったことをトップが集まって議論する場です。挙がってきたテーマについて、マーケットサイドの視点を意識して、いろいろな切り口から遠慮なく意見をぶつけ合っています。

丹羽 月に1回の開催で、毎回2~3テーマ、徹底的に議論を尽くしています。テーマによっては数回にわたってじっくり議論する場合もあり、非常に充実したものとなっています。

岩崎 アイデアの発想段階から事業性があるのかどうか、長所・短所を分析するなどして検討し、課題を明確にしていく。このプロセスが加わったことで、経営資源を投入するのかしないのか、前進するのか一歩後退するのか、そういった生々しい議論を頻繁にできるようになり、実効性のある場として機能しています。NVゲート推進会の議論によって、経営層や幹部がそのテーマに対してどのような感覚を持っているかがわかるので、各テーマの担当者も安心感と緊張感の両方を持って開発や事業化に取り組んでいけます。この1年で、そんな良い流れができてきたと思っています。

新商品の事業化プロセスと課題解決を図るNVゲート推進会

新商品の事業化プロセスと課題解決を図るNVゲート推進会を表した図です。新事業創出に向けた成功確度を上げるため、経営層や幹部が参加するNVゲート推進会が、マーケットサイドの視点を意識して議論しています。

「NV1000」達成を目指し「モノ売り」から「コト売り」へ

- NV1000の進捗についてはいかがでしょうか。

丹羽 NV1000達成は、NV推進本部、研究開発本部、製造技術本部の3部門連携がカギであり、それについてはかなり進みました。マーケティング部隊であるNV推進本部がキャッチした市場や顧客のニーズを研究開発本部と製造技術本部で共有し、真の価値を生む事業や製品の開発につなげるという新しいプロセスが回り始めたところです。

岩崎 「プロダクトマーケットフィット」を強く意識して、さまざまな分野での新規事業創出の準備を進めています。例えば、「EnerCera(エナセラ)」は、IoTなどに活かせる小型・薄型のリチウムイオン二次電池ですが、組み合わせによって幅広い展開が期待できるとして、多くの企業から声をかけていただき、協業に取り組んでいる最中です。EnerCeraは類例のない製品であり、さまざまなソリューションにつなげることで新しい価値を付加できる可能性に満ちています。グループ全体で進めている「モノ売り」から「コト売り」への転換を体現する事例としても、大いに期待しています。

丹羽 大型蓄電池「NAS電池」を活用したビジネスも、コト売り事例の一つです。NGKグループでは、数年前から太陽光発電とNAS電池を組み合わせた地域新電力事業を展開しており、現在、恵那電力(岐阜県恵那市)、あばしり電力(北海道網走市)の2つの地域電力会社が稼働しています。NAS電池は、エネルギーの地産地消などを通じてカーボンニュートラルに大きな役割を果たせる製品であり、非常用電源としても活用できることから自然災害への対応力強化にも寄与します。今後は、地域の企業など仲間を増やし、全国的に拡大していく方針です。

岩崎 CO2の回収・利用・貯蔵(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の関連では、分子レベルでの分離が可能なサブナノセラミック膜の技術があります。この技術を活用することで、CO2以外にも水素や窒素などを分離することが可能です。世界的なカーボンニュートラルの流れの中、あらゆるシーンにおいてCO2を分離・回収する技術の社会的なニーズが高まっていることから、さらなる分離性能を向上させ、2030年頃の実用化を目指して取り組みを進めています。また、主力の自動車排ガス浄化用セラミックスを応用し、空気中に存在するCO2を直接回収するDAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)向けの新製品にも注力しています。こちらについては、2025年までに実証実験を始めたいと考えています。

丹羽 大切なのは、製造業ならでは、NGKグループならではの「強いコト」をつくることです。コトに特化している会社はたくさんありますから、そう簡単には勝てません。競争に勝つためには、“NGKの○○だから”こんなことができる、あんなこともできる、と独自の付加価値を見いだしていく必要があります。

強みを活かした事業拡大へ
外部との連携やキャリア採用を強化

- NGKグループの強みについてお考えを聞かせてください。

丹羽 私たちの強みは、何といっても独自のセラミック技術です。創立以来100年の歴史と経験によって培われてきたセラミック技術を活かして、自動車の排ガス浄化用触媒担体や半導体製造装置用の部品、電子部品など幅広い製品を提供しています。また、セラミックスの特性を最大限に引き出し、種々の産業への応用展開も行っています。技術、知見、技術者、装置、全てが揃っていて多種多様なことに対してソリューションを提供できる、唯一無二の企業であると自信を持っています。

岩崎 強みであるセラミック技術を基軸に競争優位性を保持しつつ、社会の二ーズに応えることが、ひいてはNV1000の達成につながると考えます。その際ポイントとなるのは、プロダクトマーケットフィットの意識、つまり、いかに市場や顧客のニーズに合致したモノやコトを創出できるかということです。そこで強化しているのが外部との連携です。いろいろな分野のパートナーとともに社会のソリューションに向かっていく取り組みを加速するべく、この1年間で顧問やアドバイザーというかたちで協力をいただく有識者の方を増やしてきました。これまでにない新しい価値を創出するためには、さまざまな分野の専門家の知恵が必要であり、そのような方々に開発初期の段階から入ってもらうことで、事業化の成功確度は確実に上がってくると思います。

丹羽 アカデミアや専門研究機関との連携も着々と広がっており、特に国内のいくつかの大学とは最先端の研究を進めています。自社でこれまで扱ってこなかった分野の専門知識を持つ人材は確保しにくいものですが、外部機関との連携により、その分野の専門家である研究者の知識を得ることができる、これは大きなメリットです。加えて、これまで自前主義でやってきた私たちにとっては外からの視点は非常にありがたく、協働を進める中で不足点や課題点が明確になり、早い段階で軌道修正などが可能です。その結果、開発や事業化のスピードアップにもつながっていきます。

岩崎 キャリア採用にも力を入れています。他社で経験を積んできた人たちに仲間に加わってもらうことで、社内にはない視点、知見、ネットワークなどを得ることができ、新たな製品やサービスを生み出すための能力を増やすことにつながります。さらには、新規性・革新性のある技術やビジネスモデルの情報等の取り込みを図るべく、ベンチャーキャピタルやスタートアップ企業への出資も開始しました。

NV1000達成に向けた取り組み

NV1000達成に向けた取り組みを表した図です。アライアンス先、アカデミア等との協業、社内連携、市場ニーズの検証等により、インキュベーションテーマの事業化を推進するとともに、ニーズ探索や共創テーマの創出につなげています。

- 現時点の課題についてはどのように認識していますか。

岩崎 マーケティング部隊を見ていて感じるのは、情報収集力がまだまだ弱いということです。自分たちの技術に対する良い評価や情報に吸い寄せられてしまいがちで、アイデアがビジネスに結び付くためには何が不足していて、それをどう解決していかなければならないのかといった「負の情報」の取り方が不足しているように思われます。製品の社会実装には、この負の情報こそが重要です。お客さまから、あるいは外部のブレーンから負の情報をもらうためには、しっかりとした信頼関係の構築が必要であり、良い情報をもらうよりも実は何倍も難しいのです。そのような意識を持って、一人ひとりがコミュニケーションスキルを磨いてほしいと思っています。また、今後は海外の企業などとも連携する機会が増えてくると思いますが、その際には言葉の問題はもちろん、文化、風習、価値観など、さまざまな違いを意識したコミュニケーションスキルが求められます。そういった能力を身に付けたグローバル人材を育てることにも、注力していかなければならないと考えています。

丹羽 人材の育成については、今般、新たにNGKグループ人的資本経営方針を策定しました。NGKグループビジョン達成という目標に向かって、変革と挑戦を実行していく人材、研究開発と商品開花を後押しするDX戦略のキーパーソンとなる人材、マーケティングと技術の両方の知識を備えてグローバルに活躍する人材、そういった人材を育成していくことが重要と認識しており、社内環境の整備、人事制度改革などの取り組みを開始しています。それからもう一つ、外部との連携を進めてきたとはいえ、まだまだ内向きの傾向が見られます。自前主義・秘密主義から脱却して、もっとオープンな組織をつくっていかなくてはなりません。例えば、研究開発の成果を積極的に公開するなどして議論を喚起すれば、多くのリターンが得られるはずですから。

岩崎 もう一つ、各プロセスのスピードアップも課題に挙げられます。社会や環境がいまだかつてないスピードで変化しており、私たちもスピード重視で行動していかなければならないと思います。研究開発では、蓄積データを活用するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)なども取り入れており、DX推進とも掛け合わせながら、スピード化・効率化に取り組みます。

マテリアルズ・インフォマティクス(MI):AIの中核技術である機械学習やビッグデータなどの情報科学(インフォマティクス)を、新材料・新素材開発に活かす取り組み。

マテリアリティのリスク・機会について

- 新たに特定したマテリアリティに紐づくリスクと機会の対応について、考えをお聞かせください。

丹羽 NGKグループは製品やサービスを通じて社会課題を解決していくことを存在目的として、100年前の日本ガイシ創立時から現在のESGにつながる経営を行っており、今回、時代の変化に鑑みつつ、サステナビリティの視点を加えてマテリアリティとして明確化したかたちです。特定したマテリアリティは、NGKグループビジョンを策定する際に幾度も議論を重ねた内容がベースになっています。中でも「気候変動への対応」「資源循環の推進」「デジタル社会インフラへの貢献」などは、掲げている2つの柱「カーボンニュートラル」「デジタル社会」に直結しており、新規事業創出のテーマアップにおいて考え方の軸となるものです。

岩崎 リスク・機会でいえばEV化の進展があります。EV化の進展はNGKグループにとって大きなリスクですが、EV化が進むことによって新しいビジネスチャンスが広がるという面もあるのです。例えば、パワー半導体が使われれば、熱マネジメントの中で私たちのセラミック技術の出番もあるでしょう。先ほどお話ししたサブナノセラミック膜についても、「気候変動への対応」「資源循環の推進」「環境汚染の防止」といったマテリアリティ項目において、さまざまなチャンスが広がっています。「デジタル社会インフラへの貢献」の面では、セキュリティ等のリスクがある一方で、情報通信インフラを支える最先端電子デバイスに用いられる各種ウエハーなどの開発に注力しており、今後事業機会は拡大していくと考えています。時代の変化に対する健全な危機感はありますが、悲観的には捉えていません。変化に乗じて新しい発想で新しい価値を創出していけばいい。それがNew Valueに込められた想いです。

NV1000達成に向けて果敢に挑戦を

- 最後にステークホルダー皆さまへのメッセージをお願いします。

丹羽 従業員の皆さんに対しては、「果敢に挑戦を」です。失敗を推奨するわけではありませんが、うまくいかなくても構わないのです。全ての挑戦がうまくいくなどあり得ないのですから。大事なのは、うまくいかなかったときに、それを糧にして次につなげることであり、それも含めての挑戦です。そして挑戦は何度してもいい。あきらめずに挑戦を続けていけば、いつか必ず成果に結び付くはずです。

岩崎 困難だと思うことに、あえて挑んでほしいと思います。苦労が多く、うまくいかないことも多いかもしれません。しかしその分、達成したときの喜びは大きく、自分自身の成長にもつながります。一人では無理だと感じたら、チームでチャレンジするのも良いでしょう。「為せば成る」のポジティブ思考で、道を切り拓いて進んでほしいです。

丹羽 全てのステークホルダーの皆さまにお伝えしたいのは、NV1000を掲げてスタートした新体制が、良いかたちで機能しているということです。NGKグループには目標が定まると一致団結してがんばる風土があり、まさに今、そのような気運が高まっています。NV推進本部、研究開発本部、製造技術本部の連携体制は非常に頼もしく、研究開発から商品開花への道筋が整ってきました。私たちの方向性は間違っていないと確信しており、この取り組みを進めていけば、NV1000は必ず達成できると思っています。これからのNGKグループにどうぞご期待ください。

(インタビューは2023年4月に実施)