財務メッセージ

資本コストを意識した経営の実践に取り組み、収益性と財務健全性を両立

収益性の確保と財務健全性を両立した財務戦略を通じてNGKグループビジョンの実現に向けた変革を支えるとともに、財務と非財務の統合による企業価値の最大化を目指します。

NGKグループビジョンの達成に向けて

取締役常務執行役員 神藤 英明の写真

2021年4月に公表したNGKグループビジョンでは、2025年度の業績目標として売上高6,000億円、営業利益900億円、当期純利益600億円を掲げています。

2022年度は、大幅な円安進行による為替影響が寄与し、売上高は前期比9.6%増の5,592億円と過去最高を更新することができました。しかしながら、営業利益については、原燃料価格高騰のインパクトが想定以上に大きく、インフレによる労務費上昇など各種費用の増加も加わったことから、前期比20.1%減の668億円となりました。また、当期純利益については、移転価格税制に関わる税金還付等(約118億円)などがあった一方で、中国拠点における固定資産の減損損失や、南アフリカ拠点における生産の停止を決定したことに伴う関係会社事業損失といったエンバイロメント事業における生産能力適正化による特別損失を計上したほか、知多事業所におけるがいし製品の製造・販売終了を決定したことに伴う減損損失などを計上し、前期比22.3%減の550億円となりました。

2023年度については、半導体投資やデータセンター投資の減少等に伴うデジタルソサエティ事業を取り巻く市況の悪化はしばらく続くものの、エンバイロメント事業の自動車関連製品が堅調に推移する見通しであることから、売上高は5,650億円と過去最高となった前期の更新を見込んでいます。利益面では、デジタルソサエティ事業の物量減少に加え、原燃料費や労務費などの費用増により営業利益は560億円を目標としています。一時的な市況の停滞から減益の見通しを立てていますが、収益性改善を図るべく販売価格の改定やエンバイロメント事業の収益改善、デジタルソサエティ事業の拡大、エネルギー&インダストリー事業の黒字化などにスピードを上げて取り組んでいます。今後も外部環境変化や市場動向を注視しながら、NGKグループビジョンの目標達成に向けて適切に経営資源を配分していきます。中でも2030年に新事業化品の売上高1,000億円以上を目指す「New Value 1000」へのインプットでは、2021年度からの10年間で3,000億円の研究開発への投資を計画しています。2023年度は過去最高の310億円を予定しており、カーボンニュートラル及びデジタルソサエティ関連で全体の約70%、200億円を超える資金を投じていきます。

為替レートを1ドル=100円、1ユーロ=120円を前提とする

企業価値向上に向けて

当社は、株主の皆さまの利益を重視し、持続的な企業価値向上と利益還元を経営の最重要政策の一つに位置付けています。当社の株式市場からの評価は、2023年3月期末日時点でPBR(株価純資産倍率)1倍未満となっており、早期の改善を目指して、「資本収益性の向上」「成長性の確保」「非財務価値の向上」の3つの取り組みを推し進め、企業価値向上に努めていきます。詳細については次の通りです。

資本収益性の向上

CAPM(Capital Asset Pricing Model)を用いた当社の株主資本コストは9.1%と想定しており、これを上回るべく、中長期の観点で自己資本利益率(ROE)10%以上の水準を目標に、資本効率を重視した経営を推進します。財務健全性を意識した資本政策をベースに、社内展開にあたっては、ROEと関連性の高いNGK版ROIC(営業利益÷事業資産)を管理指標に用い、事業部門ごとに目標を掲げて収益性改善に努めていきます。

成長性の確保

収益性と成長性の2軸でポートフォリオを管理し、NGK版ROICは10%、売上高成長率は5%を基準に精査を行い、成長が期待できる事業群への優先投資を検討する一方、低成長・低収益に区分される領域については、事業継続の判断を個別に検討していきます。加えて、持続的な成長を実現するために研究開発を強化し、2030年の目標として掲げている「New Value1000」の達成を目指し、成長性を確保していきます。

当面、コア事業となるのは、自動車関連製品を主力とするエンバイロメント事業であり、世界的なEVシフトの進行に伴い売上高の成長が限られていく中でも、省人化、リードタイムの短縮、コスト削減施策などを進めて、より高収益・高効率な事業運営に取り組みます。エンバイロメント事業は、将来的にDACなどのカーボンニュートラル領域への事業構造の転換と設備の転用も視野に入れながら、短期的にはキャッシュ創出力の向上を目指します。

また、将来の成長の柱となるデジタルソサエティ事業については、中長期の成長性をさらに高めるため、高付加価値品の投入により競争力を高め、投資を拡大して収益性を向上させていきます。エネルギー&インダストリー事業については、将来の成長事業の受け皿となるべく、各事業の収益性を改善していきます。

NGKグループビジョンに対する進捗(業績推移)

NGKグループビジョンに対する進捗を示したグラフです。

中期の事業ポートフォリオイメージ

中期の事業ポートフォリオイメージを示したグラフです。

非財務価値の向上

近年、企業の価値を測る物差しとして、財務価値に加えて知的資本、人的資本などの見えない資本、すなわち非財務価値の重要性が高まっています。当社グループは、持続的な成長とNGKグループビジョンで掲げたカーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する事業への転換を果たすべく、ESGを経営の中心に位置付けており、環境負荷の低減や人的資本の向上など、多岐にわたる社会的責任を果たし、非財務価値を高めることで企業価値の向上につなげていきます。具体的な取り組みとして、利益の追求と将来の成長の源泉となる人的資本や知的資本への投資の両立を総合的に評価するための管理指標に、営業利益にCO2排出コストや労務費、研究開発費、各評価機関のESG目標達成率を加味したNGK版付加価値(NGK Value-added)を導入しています。短期の収益性や中長期の成長性といった財務価値に加え、財務諸表に表れない非財務価値も高めて、企業価値向上を実現します。

企業価値と当社の経営指標の関係

企業価値と当社の経営指標の関係を表した図です。資本収益性・成長性・非財務価値を高め企業価値の向上を目指すための経営方針、経営指標(KPIs)、2030年ターゲットを示しています。管理指標には、営業利益にCO2排出コストや労務費、研究開発費、各評価機関のESG目標達成率を加味したNGK版付加価値(NGK Value-added)を導入しています。

資本コストを把握した上で資本政策を実施

2022年3月期のROEは、株主資本コストを上回る12.9%、NGK版ROICについても税引前の加重平均資本コスト(WACC)10%を上回る13.3%を確保しましたが、2023年3月期及び2024年3月期については、市況の悪化により、いずれも一時的に10%を下回る見通しです。

このような現状を把握した上で、資本政策においては、資本コストを上回る収益性の確保と財務健全性を両立し、利益率、資本回転率、財務レバレッジを事業戦略と整合した健全な水準に保つことを意識していきます。有利子負債の活用と機動的な自己株取得を含めた積極的な株主還元を行い、資本コストの低減を図るほか、既存事業の収益拡大に加えて事業ポートフォリオの転換と新規事業の拡大により、ROEを向上させ、エクイティ・スプレッドの拡大を目指します。資金調達面では有利子負債での調達を基本としつつ、財務健全性維持のためD/Eレシオ0.4を目途としています。

利益還元の方針について

NGKグループは株主の皆さまの利益を重視し、持続的な企業価値向上と利益還元を経営の最重要政策の一つに位置付けています。成長に向けた適切な投資資金の確保と、資本効率を意識した利益還元をバランスよく行っていきます。

配当金については、事業リスクの変化に合わせた純資産管理と3年程度の期間業績(ROE)へのリンクも勘案しながら、純資産配当率3%及び連結配当性向30%程度を中長期的な目処とし、さらにはキャッシュ・フローの見通しなども勘案して配分することとしています。こうした考えに基づき、2022年度の株主配当については1株当たり66円で実施させていただきました。2023年度の配当金につきましては、配当性向や純資産配当率の水準に鑑みて1株当たり50円とさせていただく予定です。

また、従前より資本効率の向上、株主還元の充実を目的に自己株式取得を進めており、2022度は550万株(96億円)の自己株式の取得と消却を実施しました。今後も成長投資、配当水準、手元資金や株価水準などを総合的に勘案しながら、機動的に実施していく考えです。

企業価値向上に向け、情報開示、投資家・株主との対話を推進

NGKグループでは、IRの要諦は積極的な情報開示と投資家・株主との対話であると認識し、1990年代より情報開示と投資家とのコミュニケーションを強化しています。具体的には年2回、機関投資家向けに決算説明会を開催するほか、主幹事証券会社が開催する海外投資家を集めたフォーラムや海外IR、個人投資家向けのIR、電話取材や個別の機関投資家訪問などを実施しています。近年はコロナ禍の影響によりオンラインを活用した交流が中心でしたが、感染状況が落ち着いてきたことから、今後は対面での対話機会を復活させていきます。

皆さまとの対話を行う上で強く意識しているのは、足元の業績報告に偏らず、NGKグループの中長期の方向性や取り組みをしっかりと伝えること、そして業績が芳しくないときほど、背景や状況、見通しについて丁寧に説明することです。

ステークホルダーの皆さまからのフィードバックは経営の質の向上において非常に有益であり、さまざまなご意見は当社グループに対する期待の表れと受け止めています。引き続き、ステークホルダーの皆さまとの対話機会の充実に努め、さらなる企業価値、株主価値向上を目指してまいります。

(インタビューは2023年5月に実施)