特集
New Value 1000
部門連携を強化し新事業化品で売上高1,000億円を目指す

「NGKグループビジョン Road to 2050」では、事業構成転換の重要施策として、新事業化品により2030年に売上高1,000億円を目指す「New Value 1000」(NV1000)を掲げています。実行と推進の軸となるNV推進本部、研究開発本部、製造技術本部の各リーダーに、方向性や具体的な取り組みについて話を聞きました。
「NV1000」は私たちの変革への決意表明
-NV1000への取り組みが本格化しました。

岩崎 NGKグループを取り巻く事業環境は大きな変化の局面を迎えています。電気自動車(EV)へのシフトによる当社排ガス浄化用製品の中期的な需要減少は不可避であり、半導体製造装置用製品等の伸長が見込めるとはいえ、NGKグループの持続的成長のためには、次の柱となる事業を育てていかなければなりません。このような認識のもと、現代の社会課題を重ね合わせて進むべき方向性を示したのが「NGKグループビジョン Road to 2050」です。そのビジョン実現に向けて、なすべき5つの変革の中の「研究開発」において、「NV 1000」を掲げました。2030年に新事業化品売上高1,000億円以上を目指すというもので、その実現に向けて研究開発費を10年間で3,000億円に増額するとともに、その8割をカーボンニュートラルとデジタル社会関連に配分する予定です。NGKグループの変革に向けての強い決意を表したチャレンジングな目標ですが、NV推進本部、研究開発本部、製造技術本部の3部門連携によって、もう一つの変革である「商品開花」を推進し、その早期実現を目指していきます。
七瀧 NV1000達成のハードルはかなり高く、生半可な気持ちでは実現できないと気を引き締めています。研究開発部門としては、これまで以上に競争力の源泉となる新しい差異化技術の創出を意識して、有望な研究開発テーマを次々に生み出し、スピードを上げて研究開発を進める必要があります。 かつては開発に10年以上かかった製品もありますが、変化の激しい現代においては、より効率的かつ迅速に製品化につなげていかなければなりません。また、テーマの成功確率を上げるために、有望な市場かどうか、勝てそうな市場なのか、勝つために何が必要なのかといったマーケティングの基本をしっかり実施することも重要になってきます。
宮嶋 試作、量産化技術、量産品質などを担う製造技術本部は、“クロコの中のクロコ”という立ち位置ですが、開発した新製品を事業化して立ち上げ、いかに早く収益を上げる形にできるかは、私たちにかかっています。モノづくりのプロセスにおけるスピードアップは最優先課題であり、あらゆる段階においてタイムロスを減らすためにも随時連携を密にして取り組まなければと考えています。これまでは主に既存事業の横軸を通す役割が中心でしたが、今後は新製品の製造技術開発に対してもさらにエンジニアリング力を発揮していきます。
マーケティング・差異化技術・モノづくりの連携

マーケティングに注力するとともに製品化、事業化へのスピードを上げる
- 各本部の取り組みについてお聞かせください。
岩崎 NV推進本部はNV1000の早期実現に向けて、新規市場開拓力を飛躍的に向上させることを目的としたマーケティング主体の組織として新設されました。各事業本部や本社部門からバラエティーに富んだ人材を集結し、従来とは比較にならない100人規模の体制で今春より始動しています。営業経験の豊富な人材と、深い技術知識のある人材が組んで、価値の高い情報を獲得するとともに、当社グループの製品や技術に対するグローバルな認知度を向上させていきます。NGKグループでは、強い技術への拘りがある一方で、市場性の検証が不十分なまま開発を進めた結果、期待にかなうリターンが得られないという事例も発生しています。そこで今後は、開発テーマの発想段階から、NV推進本部と研究開発部門が密に情報共有するとともに、市場や顧客の把握、競合分析などをしっかり実施し、テーマの成功確率を上げていきたいと考えています。また、今期から開始したNVゲート推進会などを通じて、経営資源の投入判断も実施します。限られた経営資源をどのテーマに機動的に重点配分するかは、NGKグループの浮沈に関わる重要な事柄ですので、議論を尽くし、納得性・透明性の高い判断となるよう運営していきます。
七瀧 先ほどもお話しした通り、研究開発の現場では、新しい差異化技術の創出に徹底的にこだわっていきます。日本ガイシは、これまでも、セラミックスの結晶配向技術や水熱合成技術、異種材料の精密接合や複合化技術等を活かして、SAWフィルター用複合ウエハー、チップ型セラミックス二次電池「EnerCera(エナセラ)」、サブナノセラミック膜といった当社独自製品を生み出してきました。今後は、開発スピードを上げつつこれまで以上の差異化技術をつくるというミッションを果たすべく、早い段階から製造技術本部を巻き込んだ開発、すなわちコンカレント開発に取り組みます。加えて、蓄積データを活用するマテリアルズ・インフォマティックス(MI)※1などDXの視点で次世代技術も取り入れながら、よりスピーディに事業化につなげたいと考えています。
※1 マテリアルズ・インフォマティクス(MI):AIの中核技術である機械学習やビッグデータなどの情報科学(インフォマティクス)を、新材料・新素材開発に活かす取り組み。

宮嶋 製造技術部門としては、従来のモノづくりのプロセスに対してマインドセットを変える必要があります。これまでは研究開発部門がプロトタイプを完成させた後、当部門がパイロットプラント設計に着手し、実際にモノができるかどうかの検証を重ねて、最終的に量産可能な形に仕上げるのが通例でした。しかし今後は、全体的に大幅なスピードアップを図るために、複数のプロセスを同時並行で進めるコンカレント開発を実行していきます。具体的には、開発の上流段階からプロジェクトに参画、早い時期から量産設備の検討等を含めて量産化を見据えた製造プロセスの開発に着手します。試作のステップを効率化できるよう、3Dプリンターなどの技術も取り入れていきます。段階ごとに発生するさまざまな課題に対しても、同時並行で解決にあたり、研究開発部門へのフィードバックも迅速に行います。
岩崎 外部からの知見を積極的に取り入れることは必須と考えています。当社はこれまで、どちらかといえば自前主義でしたが、今後はそれでは勝つのは難しくなってきます。世界のメーカーがカーボンニュートラルとデジタル社会関連に向けて技術革新に邁進する中で、当社の技術を社会実装するためには、多くの外部知見を活用する必要があります。アカデミア、専門研究機関はもとより、グローバルなスタートアップ技術の取り込みも図ります。そのために、ベンチャーキャピタルやスタートアップ企業への出資も始めました。
七瀧 新しい差異化技術にこだわりながらも、研究開発のスピードを上げるためには、開発人員・設備の増強に加え、オープンイノベーションにこれまで以上に積極的に取り組むことが必要です。大学や公的機関からのシーズの取り込みや共同研究など、外部リソースを活用すれば、イノベーションの幅が広がります。立場が違う研究者が連携することで思いもよらない新しいアイデアが生まれることもあり、幅広いパートナーと協業して研究開発を進めていきます。
岩崎 今までにないアプローチとしてもう一つ、今春、東京・丸の内ビルディング内に、パートナーとの協働を推進する拠点としてイノベーションルーム「ID-Room TOKYO Satellite」を開設しました。プロジェクションマッピングによるインパクトのある会社紹介や、大型液晶パネルを多数使用した臨場感のあるリモート会議、来訪者が興味を持った製品を実際に手に取ることができる展示コーナーなど色々な仕掛けを導入しているので、新たな協働につながる機会を作り出す場として、事業本部も含めて全社的に活用してほしいと思っています。
NV推進本部を軸に取り組みを加速
- NV1000達成に向け、今後の展開についてコメントをお願いします。
岩崎 新商品創出から事業化へのプロセスの全てにNV推進本部が関わっていくことで、NV1000達成に向けて加速度をつけたいと思っています。各開発テーマを早く事業部に渡せるレベルに引き上げるために、必要と思えることは何でもやるという強い意志をもって、マーケティング能力を高めていきます。そのために優秀な人材を増やすべく、採用活動にも力を入れていきます。責任重大ですが、やりがいを感じています。

七瀧 早い段階から連携し事業性やお客さまのメリットを追求していけるようになるNV推進本部の存在を非常に心強く思います。研究開発テーマを事業化につなげるまでには、①発想創出②実現化検討 ③事業性検証 ④事業性実証という4段階があるのですが、NV推進本部の社内外ネットワークを活用することで、筋が良さそうなテーマはスムーズに次のステップへ進めることができ、一方で、事業化できるか否かNV推進本部の知見が見極めの軸となり、研究開発を止める判断もつけやすいと考えています。研究開発を止めるタイミングはとても難しいのですが、有望なテーマにリソースを集中するために、時には縮小や撤退も必要ですから。
宮嶋 研究開発段階から量産を視野に入れていくことで、手戻りなく効率的に量産化に進める体制が構築できると考えています。例えば、量産化にあたって重要課題となるのはコストですが、このような進め方をすれば、コストでつまずいて一から考え直すといったことも起こりづらくなります。また、連携を密にすることで風通しも良くなり、さらなる好循環が生まれるのではないでしょうか。NV1000達成には、3つの本部の連携が大きなポイントであり、フラットなコミュニケーションを意識し、一つの目標に向かって有機的に機能する形にしていきたいと考えています。
岩崎 環境変化への危機感という側面はありますが、NV1000も、NV推進本部も、ポジティブな発想から生まれた施策です。社内に存在するコア技術を軸に、国内外の当社グループとともに、失敗を恐れず挑戦をしていく決意です。NV推進本部は多様な人材が集まった組織ですが、全てのメンバーが新しい価値の創造に貢献しようと張り切っています。皆で知恵を絞り、さまざまなフィールドで果敢にチャレンジを実行していく、そのアクションがNV1000達成への確かな道であり、NGKグループが目指す変革につながると信じています。

(インタビューは2022年5月に実施)