変革を支える財務・資本戦略
財務の健全性を維持しながら資本効率を重視した経営を推進
「NGKグループビジョン」の達成に向け、最適な資本配分と事業ポートフォリオ変革を通じて収益性向上と社会課題解決の貢献による企業価値向上を目指します。
NGKグループビジョンに対する進捗

2021年4月に公表したNGKグループビジョンでは、為替レートを1ドル=100円、1ユーロ=120円の前提で、売上高6,000億円、営業利益900億円を2025年度の業績目標として掲げました。
2021年度は、自動車関連製品、半導体製造装置用製品の大幅な需要増加に加えて、円安の影響もあり、売上高は前期比12.9%増の5,104億円、営業利益は前期比64.3%増の835億円、ともに過去最高を更新することができました。グループビジョンと同じ為替前提であれば、売上高は約4,870億円、営業利益は約730億円であったと評価しています。グループビジョンへの取り組みの初年度として着実に前進しておりますが、為替による業績の押し上げに気を緩めることなく、目標達成に向けて手を打ってまいります。
2022年度については、ウクライナ情勢の影響によるコスト増で自動車関連製品の利益は伸び悩むものの、半導体製造装置用製品の需要増と円安を反映して売上高5,800億円、営業利益900億円と増収増益を見込んでいます。2025年度の業績目標を前倒しで達成することを目指して、適切な経営資源の配分を実施いたします。
中期の事業ポートフォリオイメージ
NGKグループビジョンでは、カーボンニュートラルとデジタル社会を今後の成長分野と位置付け、これらの関連製品が2030年には売上の50%、2050年には80%を占めるように事業構造の転換を進めています。現在の収益の柱であるエンバイロメント事業は、電気自動車の普及拡大により将来的には内燃機関ビジネスの漸減を予想しますが、世界的な自動車市況の回復や各国の排ガス規制強化による需要拡大に対応したグローバルでの安定供給体制により利益の最大化を目指します。得られた利益を活用し、成長分野であるデジタルソサエティ事業に投じてさらなる拡大を図るほか、エネルギー&インダストリー事業は長期的なカーボンニュートラル製品の拡大を視野に入れながら、まずは足元の収益性の改善に取り組みます。
各事業の収益性を維持・向上させていくことで、中長期で全体の売上高と利益の拡大を図っていく考えです。
NGKグループビジョンの達成に向けカーボンニュートラル、デジタル社会の分野へ優先投資
キャッシュアロケーションについては、過去5年の設備投資からは継続的なリターンが得られる見通しであり、成長分野へのインプット、ステークホルダーへの還元などにバランスを考慮して実施していく方針です。
成長分野へのインプットについては、NGKグループビジョンで取り組むカーボンニュートラル、デジタル社会両分野の設備投資や研究開発に重点的に投資し、2030年までに新事業化品で売上高1,000億円を目指すNewValue 1000の達成を目指します。2022年度の設備投資は、エンバイロメント事業の更新投資のほか、デジタルソサエティ事業の増産投資を中心に総額590億円を予定しており、今後数年はデジタルソサエティ事業を中心に、年間600億円程度になると見込んでいます。加えて、CO2排出量ネットゼロに向けた環境投資も順次拡大しており、インターナル・カーボンプライシングを用いた経済的な観点も投資判断に反映して効率的に進めていきます。
研究開発費については、NGKグループビジョンでは10年間で3,000億円を研究開発に投じる計画を打ち出しました。2022年度は260億円を予定しており、このうち約60%はデジタルソサエティとカーボンニュートラルのテーマに投じていきます。
将来的な成長を視野に入れ、M&Aも前向きに検討を進めていく考えです。方向性は大きく2つあり、一つは既存事業の周辺でさらなる強化、拡大につながる対象を検討、もう一つは新製品や新事業創出に協業できる企業への出資などを検討していきます。この2つを選定の軸に積極的に機会を探っていきます。


※1 NGK版ROIC=営業利益÷(売掛債権+棚卸資産+固定資産)
「資本」「負債」に代わり、事業部門が管理可能な事業資産
(売掛債権、棚卸資産、固定資産)で算出
NGK版ROICの浸透により収益性が改善
資本政策においては、資本コストを上回る収益性の確保と財務健全性を両立し、利益率、資本回転率、財務レバレッジを事業戦略と整合した健全な水準に保つことを意識しています。自己資本利益率(ROE)を主要な経営指標とし、資本効率を重視した経営を推進しています。関連性の高い投下資本利益率(NGK版ROIC:営業利益÷事業資産)を管理指標に取り入れており、投下資本の代わりに事業資産(売掛債権、棚卸資産、固定資産)、税引後利益の代わりに事業部門の営業利益を用いることにより、事業部門が自ら目標管理できるようにしています。2016年度よりこの指標を採用し、以後、ROIC経営の考え方は広く社内に浸透しています。2021年度からはROICツリーによる管理を始め、売上高原価率、販管費率、在庫・売掛債権保有月数などを事業部単位まで落とし込んで展開し、事業の改善につながるようにしました。中長期の観点でROE10%以上の水準を維持すべく、全社ROIC10%以上を基準とし、事業ごとに目標を掲げ、採算性の改善、投資の優先順位付け、棚卸資産の適正水準を意識し、 ROICの向上を目指しています。2021年度は、業績の改善等によりROE12.9%を確保しています。
負債資本構成については、負債の有効活用を意識する一方で、現状の債券格付A+(R&I)は最低でも維持できるようDEレシオ0.4程度を目途としています。また、資金調達面では、有利子負債での調達を基本とし、長期、短期と分散してリスク低減を図っています。
利益還元の方針について
株主の皆さまの利益を重視し、持続的な企業価値向上と利益還元を経営の最重要政策の一つに位置付けております。成長に向けた適切な投資資金の確保と、資本効率を意識した利益還元をバランスよく行っていきます。
配当金については、事業リスクの変化に合わせた純資産管理と3年程度の期間業績(ROE)へのリンクも勘案しながら、純資産配当率3%および連結配当性向30%程度を中長期的な目途とし、さらにはキャッシュ・フローの見通しなども勘案して配分することとしています。こうした考えに基づき、2021年度の株主配当については1株当たり63円で実施させていただきました。
また、従前より、資本効率の向上、株主還元の充実を目的に自己株式取得を進めており、昨年度は500万株(97億円)の自己株式の取得と消却を実施しました。今後も、成長投資、配当水準、手元資金や株価水準などを総合的に勘案しながら、機動的に実施していく考えです。
ESG経営と財務戦略

NGKグループはESG視点の経営を推進しており、財務面においてもESGを意識した取り組みの強化、情報開示の充実に努めています。直近の主な取り組みは次の通りです。
サステナブルファイナンスの推進
2021年12月、グループ初となるグリーンボンド(無担保社債)を発行しました。環境効果のある製品・サービスの提供、自社の事業活動・生産活動におけるカーボンニュートラルへの取り組みなどに充当し、NGKグループビジョン、NGKグループ環境ビジョンの達成に向けた活動を推し進めていきます。今後もグリーンボンドを戦略的な資金調達手段として位置付け、継続発行を検討していきます。
TCFD提言に基づく情報開示
NGKグループは、2020年2月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し、2022年4月にはTCFDが推奨している、ガバナンス、戦略、リスクマネジメント、指標と目標の4項目に沿って、シナリオに基づき分析した関連情報を開示しました。今後も引き続き気候変動関連の情報開示を充実させ、環境に配慮した事業活動を継続していくことにより、持続可能な社会の実現への貢献と企業価値の向上を図ります。
新たな管理指標、NGK版付加価値の導入
新たな管理指標として、営業利益にCO2排出コストや労務費、研究開発費、ESG目標達成率を加味したNGK版付加価値(NGK Value-added)を導入しました。 狙いは将来の競争力の源泉となる人的資本や知的資本、環境負荷の低減や人権尊重への取り組みなど「見えない価値」を「見える化」することにあり、短期の収益性や中長期の成長性といった財務価値に加えて、財務指標に表れない非財務価値を高めて、企業価値向上につなげていく考えです。
投資家・株主との対話を重視したIR活動を展開
NGKグループは1990年代からROE向上を掲げ、IR活動を行っています。年2回投資家向けに決算説明会を行っているほか、主幹事証券会社が開催する海外投資家を集めたフォーラムや海外IR、個人投資家向けのIRを実施しています。昨今は新型コロナウイルス感染症の影響でオンラインでのコミュニケーションも活用しており、その他、電話取材や個別の機関投資家訪問など昨年度は約130回実施しています。
ステークホルダーの皆さまからのフィードバックは経営の質の向上において非常に有益であると考えています。また、こうした対話を実現するための積極的なIR活動は、資本コストの低減にもつながります。
今後も企業価値向上に向けて、ESG視点を重視し、全てのステークホルダーと相互に信頼関係を深めるべく対話機会の充実に努めてまいります。
NGK版付加価値(NGK Value-added)

※1 CO2排出コスト:2022年度より導入したICP($130/t-CO2)で算出

(インタビューは2022年6月に実施)