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変化の時代の中で、たゆまぬ「挑戦と変革」を重ねながら、NGKグループビジョン達成に向けて進化を続けます。

日本ガイシ株式会社 代表取締役社長 小林茂(こばやし しげる)の写真です。

不安定な国際政治、深刻さを増す地球環境問題……私たちを取り巻く外部環境は近年、大きく揺れ動いています。その中でNGKグループは、2021年に策定した「NGKグループビジョン Road to 2050」のもと、着実な歩みを重ねてきました。時代に応じた変化を続けながら、独自のセラミック技術を通じて社会課題を解決できる、サステナブルな企業を目指して前進し続けます。

先が見通せない、変化の時代に

2022年度は、ロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の上昇、円安の影響による原材料の価格高騰、また深刻な半導体不足などの想定外の事態が続き、営業利益は前期比20%減の668億円にとどまりました。

NGKグループの事業に深く関連する自動車産業も、半導体不足により自動車の製造が進まず、お客さまのニーズに十分に応えられていない状況です。製品の複雑化やグローバル化の進行とともに、サプライチェーンがかつてよりも広く密接につながり合うようになったことで、ある一つの事象がサプライチェーン全体にもたらす影響が非常に大きくなることを実感させられました。世界的に見ても、第二次オイルショック以来の、まったく体験したことがないような事態が起こっている、先の見通しが非常に立てづらい時代になっているといえるのではないでしょうか。

こうした厳しい、激しい変化の時代を乗り越え、生き延びていくためには、企業もまた変わらなくてはならないと認識しています。私は2021年4月に社長に就任いたしましたが、前社長が全力で取り組んできた改革、変化を止めることは絶対にしたくないという想いが強くありました。

もともと、当社は真面目な社風だということもあり、方向性が明確に見えれば着実に歩みを重ねて前進していく能力はあります。その反面、「とりあえずやってみよう」と思い切って一歩を踏み出すことがなかなかできない面があると感じていました。

一方、私自身は、子どもの頃から海外生活が長かったこともあり、変化にはあまり動じず、順応が早いほうです。また、入社後も大半を海外グループ会社など本社以外の環境で過ごし、外側から会社を見られる状況にあったことから、ある程度客観的な視点も得られたのではないかと思っています。そうした経験も活かしながら、時代に応じた変革を積極的に進めていきたい。NGKグループが進むべき方向性を、全社に示していきたい。そんな想いで就任からの2年間、さまざまな取り組みを進めてまいりました。

2050年へのグループビジョンと「5つの変革」

社長就任直後の2021年4月には、2050年を見据えた中長期ビジョン「NGKグループビジョン Road to 2050」を発表しました。創立100周年を迎えた2019年に策定した「NGKグループ理念」をもとに、会社としての進むべき具体的な方向性について、さらに議論を重ねてつくり上げたものです。

この中では、2050年におけるNGKグループの「ありたい姿」をまず想定し、それを実現するためにバックキャストの視点から今やるべき取り組みを、NGKグループにとっての重要課題「5つの変革」として設定しました。これは、この激しい変化が続く時代において、グループ全体を支えるバックボーンのような存在であり、私たちが今何をすべきかを示してくれる道しるべでもあると考えています。

以前は、新しいことを始めるときや何かを変えようとする際、従業員それぞれが違う方向を向いていて足並みが揃わないということがしばしばありました。しかし、この「5つの変革」というバックボーンができたことで、常にそれに沿って考えていけば課題解決を推進できるようになった。そのことが、先に述べたように「変わる」ことにためらいがちな社風を、少しずつ変えてきてくれているようにも感じます。「5つの変革」の最初に掲げたのは、経営の中心となる「ESG経営」です。もともと当社は創立以来、独自のセラミック技術によって社会課題を解決することをパーパス(存在意義)としており、社会課題の解決と成長戦略が統合されていました。優れた人材の確保・育成やガバナンスの強化も含め、これまでに取り組んできたこと、積み重ねてきたものを改めて整理し、再確認することで、さらなるESG経営の強化へつなげていきたいと考えています。

「5つの変革」の成果と現状

ビジョン策定から2年が経ち、この「5つの変革」の成果は既にさまざまな面で現れてきていると感じています。

例えば「研究開発」においては、「サブナノセラミック膜」の開発が成果を上げつつあります。これは、ナノメートル以下のサイズの孔によって、混合ガスから特定のガスを、また混合液から特定の液体を分子レベルで分離する「分子のふるい」として使用でき、排ガス中からCO2を分離するなど、カーボンニュートラルにも大きく寄与することが期待できます。

現在、その一種である「DDR型ゼオライト膜」を用いたCO2分離回収技術のフィールド実証試験が、米国・テキサス州の油田で行われています。独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構と日揮株式会社が共同で実施する実証試験です。まだ課題も多く残されていますが、試行錯誤を繰り返しながら、近い未来の実用化につなげていきたいと考えています。

このほか、サブナノセラミック膜はさまざまなアプリケーションと組み合わせることで、多様な用途に展開が可能です。特にカーボンニュートラルに向けてどのような技術にニーズが高まるかはまだ明らかでない状況下、NGKグループに大きなビジネスの機会をもたらすブレイクスルー製品になると考えています。

これまで、せっかく素晴らしい技術を開発しても、そこから社会実装、そして「商品開花」に至るまでのスピードの遅さが当社の弱みになっている部分がありました。しかし、こうした外部パートナー企業との協働などもあり、事業立ち上げまでの期間が格段に短縮されてきていると感じています。

その原動力となっているのが、2022年に立ち上げた、新技術の事業化を専門に担う「NV(New Value)推進本部」です。国内企業のみならず欧州企業への働きかけも積極的に進めており、これまで私たちの技術がよく知られていなかった地域からも、「NGKグループでこんなことはできないか」と声がかかることも増えてきています。

いくら優れた技術があっても、一社だけでは独りよがりになり、やれることにも限界があります。技術を広く開示し、ほかの企業と協働の道を探ることで、技術の使い道が広がり、ブレイクスルーも生まれやすくなるのではないでしょうか。今後はさらにつながりを広げ、「セラミックスのことならNGKグループに頼めば、難しいものでも何とかしてくれるんじゃないか」と言ってくれるパートナー企業を、国内外にもっと増やしていきたい。そして、世界のマーケットで勝負していきたいと考えています。

「収益力向上」については、冒頭で述べた外部環境の変化、景気の低迷などもあり難しい面がありますが、「売上高6,000億円、営業利益900億円、当期純利益600億円」という、ビジョンの中で掲げた2025年度目標は変わりません。現在、最大の収益事業であるエンバイロメント事業は今後も一定の収益を見込んでいます。そこで得た利益を半導体やデジタル社会関連など、今後大きく成長が見込める分野に投資し、新たなセラミック技術製品を市場に投入することで、波に乗っていきたいと考えています。

同時に、今後景気が上向きになったときにすぐに浮上できるよう、工場設備の合理化や生産性の向上など、十分な準備をしておく必要があります。そのために重要になるのが、もう一つの改革として掲げた「DX推進」です。2021年に創設したDX推進統括部が中心となってエンジニアリングチェーンやサプライチェーンの改革を進めており、かなりの効果が見えてきました。特に研究開発段階においては、過去のデータをAIで解析して新材料を効率的に探索し、製品設計に活かす「マテリアルズ・インフォマティクス(MI)」の取り組みが進んでいます。NGKグループは過去100年間の実験データを保有しており、他社にはないこの豊富な実験データを強みとしたMIの開発により、研究開発期間を10分の1まで短縮することを目指し、既にその成果が出始めています。究極的には、NGKグループの研究者の材料開発に関するノウハウをAIに学習させることにも挑戦します。

「ESG経営」の推進についても、同じく2021年に立ち上げたESG推進統括部を中心に取り組みが進んできました。この2年間で、ESG推進統括部自体も大きく成長したと実感しています。まだまだ全社の隅々にまでESGの考え方が浸透しているとは言い切れない部分もありますが、今後の課題として継続して取り組んでいきたいと思います。

持続可能な発展に向けて ─ マテリアリティの特定

また、現在のNGKグループの方向性をさらに明確に示すものとして、2023年4月にマテリアリティを特定しました。「5つの変革」と重なる部分もありますが、特に今後グローバルに事業を展開していく上では、「NGKグループは何を目指すのか」「事業をやる上で何を大事にしているのか」を、きちんとステークホルダーに説明できるものが必要だと考えています。さらに従業員にとっても、「なぜ自分たちがこの事業を担っているのか」が、マテリアリティの特定によってより理解・納得しやすくなるのではないかと思っています。

数ある社会課題の中でも、まず私たちが取り組まなくてはならないのは、やはり気候変動問題への対応だと考えています。CO2排出量削減に資する製品やサービスに、私たちの技術が活かせる場面は数多くある、そのポテンシャルも私たちには十分にあると考えるからです。

自分たち自身が排出するCO2を削減することはどの企業・個人でもできますが、直接的にCO2排出量削減に貢献する事業を展開できる企業は決して多くはありません。その一つとして今後、さらなるCO2排出量削減への貢献を追求し、具体的な事業の展開を進めていきたいと考えています。

そしてもう一つ、私が特に力を入れて取り組むべきだと考えている社会課題が「人権の尊重」です。日本は島国であり、民族的な同一性も比較的高いためか、人権に対する意識がそれほど高いとはいえません。しかし世界的に見れば、人権を守るために長年にわたって闘い、血を流してきた歴史を持つ人たちがたくさんいます。そうした社会的背景から、誰もが平等に扱われ、人権を保障されて生きていけることの大切さが、非常に強く認識されていると感じるのです。

私自身も子どもの頃、家族の仕事の都合で初めて外国で暮らしたとき、周囲から差別的な言葉を投げかけられ、「これが差別というものか」と大きなショックを受けた経験があります。今後は日本でも、この「人権の尊重」の重要性がもう少し強調されるべきではないでしょうか。

もちろん、こうした価値観のあり方が、国際的な政治状況などに影響を受けて揺れ動く場面があるのも事実です。それでも、民主主義や平等といった普遍的だと思える価値は、しっかりと維持していきたい。マテリアリティの特定においては、そうしたことも意識しながら進めてきたつもりです。

働く人に誇りを持ってもらえる会社に

インタビューに答える、小林茂(こばやししげる)社長の写真です。

2019年策定の「NGKグループ理念」では、「私たちが目指すもの」の一つとして「人材 挑戦し高めあう」という言葉を掲げています。そして今回、「NGKグループ人的資本経営方針」を新たに策定しました。「5つの変革」の「ESG経営」の中でも「良き人材の確保と育成」を挙げているように、人的資本の充実も、今後さらに力を入れて取り組むべき課題だと認識しています。

メンバーシップ型の終身雇用制度が長く根付いてきた日本にも、近年は一部で欧米のジョブ型雇用制度が導入されるなど、「雇用」に対する意識にも変化が訪れつつあります。しかし、どのような雇用制度であっても、働いてくれている人を大切にする、能力を高めるための教育機会を用意し、十分なスキルを身につけられるような環境を整える、その重要性には違いはないのではないでしょうか。

特にデジタル技術などが重視される現代は、経験を重ねるだけではなく教育によって最低限度の知識を身につけなければ、その人の能力を十分に活かすことができない時代だといえるでしょう。日本の会社は従業員に対する教育投資が少ないといわれますが、そこを改め、十分な投資をしていきたいと考えています。

また、人材育成に加え大切なのが、一人ひとりが活躍できる職場環境の整備です。私がNGKグループの従業員に対して常々言っているのが、「誰もが自分の意見をためらわずに発言し、相手もそれを真摯に受け止めることができる会社にしていこう」です。そう言い続けた成果か、ここ数年で会社全体の雰囲気も変わり、会議などでも建設的で前向きな意見が多く出てくるようになったと感じています。

そしてもう一つ、「失敗を恐れずに挑戦してほしい」ということも常に伝えています。最初にも述べたように、当社の従業員には真面目な人が多いのですが、だからこそ既存の枠にとらわれず、思い切って変化に向けた一歩を踏み出してほしい。それによって、誰もが「会社に来るのが楽しい」と思えるようになってほしいと思っています。私自身も若い頃「会社に行くのが楽しくない、嫌だ」と思った時期がありました。そう感じる人を一人でも減らすためにはどうすればいいのかを、常に考えています。

変化には、もちろん苦しい面もあります。思いもよらなかった災害やトラブルが、明日起こるかもしれません。しかし、それも含めて一緒に楽しみながら乗り越えていけるような会社にしたい。そうした姿勢を、グローバルのグループ会社も含めて共有していきたいと思います。

そして何よりも、グループの全従業員に、「NGKグループで働いている」ことに誇りを持ってもらえるような会社にしていきたい。それが、私の目標でもあります。

全てのステークホルダーから信頼を得られる会社に

今後、NGKグループが企業として存続していくためには、社会、株主、お客さま、取引先、そして従業員という全てのステークホルダーから信頼を得ることが絶対に必要だというのが私の考えです。「NGKグループなら信頼できる、付き合うといいことがある」。そう思ってもらえるような企業経営をしていかなければ、企業としての価値は下がってしまう。それでは、サステナブルな企業とはいえないと思うのです。

繰り返しになりますが、NGKグループが目指すのは、「独自のセラミック技術を通じて社会課題を解決する」ことです。そのために必要な変革を成し遂げることさえできれば、今後どのような業態になったとしても、企業として発展していくことができる、そのための力を私たちは備えていると確信しています。

ステークホルダーの皆さまにも、今後の私たちの変革と歩みをしっかりと注視いただきたい。そして、想いを共有していただける方たちには、ぜひ新たなステークホルダーとして輪の中に加わっていただくことで、より良い事業活動につなげていきたいと思います。

(インタビューは2023年5月に実施)