次世代機器に必須 あらゆるモノに電子機能を組み込む0.45mm厚のセラミックス二次電池「EnerCera Pouch」

様々な社会活動の中で日々生まれ続ける膨大なデータを、豊かな暮らしの実現や課題解決に有効活用する時代がやってきた。より価値の高いデータ活用を実践するため、ウェアラブル機器やIoTデバイスには高度な電子機能の搭載が求められている。しかし、大きく重いバッテリーがその機器の実現を阻んでいる。今、バッテリーシステムのイノベーションが渇望されているのだ。日本ガイシは、独自のセラミックス技術を応用した超薄型電池「EnerCera Pouch」によって、未来への扉を開けようとしている。

豊かで健康的な生活と効率的で持続可能な社会を実現するために、暮らしや仕事、社会活動の中で日々生まれるデータの有効活用が重要視されている。それに伴い、私たちの活動を見守るウェアラブル機器や、モノの動きや社会の動きにきめ細かく目配りするIoTデバイスが、様々な場所で利用されるようになった。ただし、「現状のウェアラブル機器やIoTデバイスでは、データを収集・活用したい場所やモノの中に、必要な電子機能を自由に組み込めないという悩みを抱えています」と日本ガイシ執行役員の大和田巌氏はいう。

センシングや無線通信、情報処理、ディスプレーなど、ウェアラブル機器やIoTデバイスに組み込みたい高度な電子機能は多い。しかし、これらを駆動するには、相応の出力・容量を持つバッテリーが必要となり、携帯型機器に広く利用される既存のリチウムイオン二次電池では要求に応えることが困難だ。大出力・高容量のバッテリーは、大きく、重く、硬い。スマートフォンの筐体内の大部分をバッテリーが占める現状から伺い知れるように、ハイスペックなバッテリーは機器の小型化を阻む要因になっている。また、安全性を確保するためには堅牢なケースに封止する必要があり、応用機器の形状やデザインの自由度に制限を加える。

存在感の薄さに秘められた大きな可能性

バッテリーが抱える課題を、新たな発想で解決する可能性を秘めているのが、日本ガイシの超薄型セラミック二次電池「EnerCera Pouch」である(図1)。同社独自の結晶配向セラミック正極板を利用することで、厚さ0.45mmと超薄型でありながら、既存のリチウムイオン二次電池に匹敵するエネルギー密度と入出力特性、長寿命を実現している。

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図1 一般的なリチウムイオン二次電池は、粉末塗工型の電極を正極に使っている。コバルト酸リチウムなど正極の活物質粉末を有機バインダーで接着させて、導電性を付与する導電補助剤を加えて製造。この方法では、リチウムイオンが通りにくく、高温による劣化も起きる。結晶配向セラミック正極板では、コバルト酸リチウムの結晶方位が揃いリチウムイオンが通りやすく低抵抗。さらに、有機バインダーや導電補助剤を含まないので高エネルギー密度で、高温実装が可能になる。

曲率半径40mmまで曲げても壊れない曲げ耐性があり、非接触ICカードの国際規格である「ISO14443-1」で求められる基準をクリア。規格上では、1000回の曲げ試験に耐えることが求められているが、6000回の試験でも外観も特性も変化しないことを確認済みだ。また、信頼性の高い封止部の設計と厳しく管理されたドライ環境での組み立てによって、適正使用環境内ならばガスの発生による電池の膨れは起こらない。さらに、安全性認証「IEC62133」に準拠しているのはもちろんのこと、過充電、釘刺し、切断、高温加熱など、規格の要求以上のありとあらゆる負荷を掛けても爆発なし、発火なし、液の飛散なしであることを確認している(図2)。

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図2 ありとあらゆる負荷を掛けて、安全性と信頼性を確認

ウェアラブル機器やIoTデバイスに欠かせない安全性と信頼性を備えたEnerCera Pouchは、スマートカード用電源として複数のメーカーで採用が始まっている。ディスプレー、指紋認証センサー、無線通信などの電子機能を組み込んだ新しいスマートカードが、EnerCera Pouchを内蔵することで実現し、市場で普及しようとしている。

EnerCera Pouchには従来の二次電池では組み込めなかった場所に組み込める代えがたい特長がある。これこそ、バッテリーシステムにイノベーションをもたらす源泉になる。既に具体的な取り組みが出てきている。山形大学の時任研究室では、超薄型で曲げて利用できるEnerCera Pouch固有の特長を活かして、曲面にも貼り付けられる薄型の温度センサー付き物流ICタグを開発した。例えば、この物流ICタグをワインボトルに貼り付ければ、適切な温度で運送されてきたエビデンスを提示できる。これによって、販売店や消費者にとっての新たな価値を生み出せる可能性がある。

近年、機器の利用環境の中に内在する光や温度、振動などを電力に変えて利用するエネルギーハーベスティング(環境発電)技術が進歩してきている。日本では、Wi-Fiルーターでデータを送信するのと同じ感覚で機器を動かす電力を送る空間伝送型のワイヤレス電力伝送を世界に先駆けて実用化すべく、総務省が中心となって取り組んでいる。ただし、これらの方法で受電デバイスが得られる電力はμWオーダーと微小。そのままでは、高度な電子機能を駆動できない。EnerCera Pouchを利用すればどうだろうか。常時受電して得られる微小電力をコツコツと貯め、必要なシーンで一気に使う。こうした利用法自体は他の二次電池でも電池サイズを大きくすれば可能だが、EnerCera Pouchのように薄型で組み込み先を選ばない二次電池だからこそ、エネルギーハーベスティング技術を活用するシーンを広げることができる。

スーパーマーケットで商品価格を電子棚札で表示する例を考えてみよう。電子棚札に無線通信機能を組み込んでおけば、オムニチャネルに対応した価格変更やダイナミックプライシングなど、高度なマーケティング手法に適用できる。例えば、タイムセール時に店内の商品の価格を一斉変更することも可能だ。その際、ワイヤレス空間伝送型電力伝送で電力を供給すれば、人手による電池交換や充電は不要になる。ただし、2021年の実用化が見込まれるワイヤレス空間伝送型電力伝送の送信出力は1W(920MHz帯)が上限。受電デバイスが得られる電力は数µW程度であり、そのままでは電子棚札を動作させることができない。「ここにEnerCera Pouchを導入すれば、常時得られる数µWの電力を漏れなく蓄電し、表示画面の切替えと無線データ通信に必要な数百mWのパルス電力を出力できます。送信出力に上限があっても電子棚札システムの構築が可能となるのです」と大和田氏はいう(図3)。さらに現状の一次電池では、電池寿命の制約から価格変更は一日当たり2回が限度であるが、EnerCera Pouchならば高頻度での価格変更にも対応できる。

しかも、0.45mm厚のEnerCera Pouchは5mm厚のコイン型電池よりもケタ違いに薄い。コイン型電池で駆動する従来の電子棚札では、導入する際には専用のホルダーが必要になる。これに対し、EnerCera Pouchを活用した電子棚札は、スマートカードタイプにできるため、特別なホルダー無しで紙の値札を置き換えられる。こうした既存の利用環境との親和性の高さも、薄型を極めたEnerCera Pouchだからこその特長である。

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図3 「EnerCera Pouch」の応用例

空間伝送型のワイヤレス電力伝送を用いたメンテナンスフリーの電子棚札

ウェアラブル機器への応用では、ランニングシューズのインソールのスマート化が考えられる(図4)。インソールに圧力センサーや無線通信機能、そしてEnerCera Pouchを組み込めば、ランニング中のデータを収集・分析し、パソコンやスマートフォン上で走り方を見える化できる。また、靴箱にワイヤレス充電器を仕込むことで、手間なく充電することもできるだろう。

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図4 安全性と信頼性の高さを生かしたスマートインソール

イノベーションをすぐに手中に

EnerCera Pouchには、「大電流タイプ」「超高容量タイプ」「高温プロセスタイプ」「高速充電タイプ」と4種類のタイプが用意されている(図5)。大電流タイプと超高容量タイプは既にNGKセラミックデバイスの都留工場で量産されており、残りも2020年10月に生産を開始する予定である。

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図5 「EnerCera Pouch」の製品ラインナップ

大電流タイプでは500mAの放電ピーク電流を実現しており、カード型デバイスにセルラーLPWAのような大出力の無線通信機能を搭載できる。さらに、小型ディスプレーを駆動して情報を表示することも可能だ。超高容量タイプでは、200mWh/ccと高い体積エネルギー密度を実現している。「二次電池の性能は、これまで駆動時間の長さに注目が集まりがちでした。しかし、高度な機能を駆動するためには大電流が必要であり、最近の機器開発者の関心は高出力に集まり始めています。また、エネルギー密度の向上も、電池の小型・軽量化に振り向けて組み込み先を多様化させることにメリットを見出す例が増えています」と大和田氏は語る。

高温プロセスタイプでは、135℃のプロセス耐熱温度を実現し、ICカードの製造工程で用いるホットラミネーション(熱圧着)に対応する。EnerCera Pouch以外のカード用薄型二次電池では、耐熱性が低いため、接着剤を使った室温工程を採用せざるを得ず、製造時のスループットが約1/10に低下してしまう。さらに接着部を剥がされてしまう可能性もあり、信頼性も劣る。高速充電タイプは、負極にもセラミックスを採用して充電開始時から高電圧を印加可能にし、およそ10分で0%から80%まで充電できるようにした。充放電サイクル寿命も長く、充電状態0%と100%を1500サイクル繰り返しても、95%以上の容量を維持する(図6)。

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図6 充放電サイクル特性

EnerCera Pouchの応用は、アイデア次第で無限に広がる。既に環境発電や無線給電など新たな技術を組み合わせて、新たなバッテリーシステムの創出に取り組む企業が複数あるという。日本ガイシは、電源用半導体で豊富な実績を持つトレックス・セミコンダクターらと電源ICモジュールを、ルネサスエレクトロニクスらとスマート農業用などの環境センシングデバイスを、リコーらと環境発電を活用した電源システムを共同開発している。その成果は、新たに公開した自社の特設ウェブサイトや秋以降に開催されるCEATECなどの展示会で紹介する予定だという。

さらに、この秋からはEnerCeraのオンライン販売が始まる。より手軽に入手して、新たな応用のアイデアを試すことができるようになる。イノベーションの創出が、さらに加速することだろう。未来を拓くバッテリーの新潮流から目が離せない。

日本ガイシ株式会社

EnerCeraについてのお問い合わせ

エレクトロニクス事業本部 電子営業部 TEL052-872-7935 https://www.ngk.co.jp/