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「変革と挑戦を続ける。多様な視点を取り入れ、挑戦を続けながら、ステークホルダーとの信頼関係構築を目指します。」日本ガイシ株式会社 代表取締役社長 小林茂(こばやし しげる)

世界の不確実性が増し、市場ニーズが絶え間なく変化する時代。私たちは、独自のセラミック技術で培った強みをさら に磨きながら、事業構成を転換し、自ら変革に挑みます。 カーボンニュートラル(CN)とデジタル社会(DS)の領域に おける成長機会を捉え、未来の社会課題を解決する新たな価値の提供を通し、持続的成長を遂げていきます。

2024年度を振り返って

2024年度の業績は、売上高・利益ともに前年を上回り、数字の上では一定の成果を残しました。ただし、その背景には円安による押し上げ効果が大きく、自社の実力に裏打ちされた結果とは言い難いというのが率直なところです。あくまで「下駄を履かせてもらった」結果であり、これに安住していては次の成長は望めません。

振り返れば、当社の強みと課題があらためて浮き彫りになった一年でした。とりわけ通信機器向けのパッケージ事業 では、近年のスマートフォンやパソコン、家電といった市場の縮小を読み誤ったことに加え、当社の対応の遅れが重なり、多額の営業赤字と減損損失を計上する結果となりました。市場の先行きに対して楽観的な見通しを持ちすぎていた 点、自社の技術や対応力を過信していた点は否めず、重く受け止めています。エレクトロニクス分野においては、変化の スピードが私たちの従来の得意分野と比較し桁違いに速く、競争環境が厳しいことをあらためて痛感させられました。

世界の構造そのものも大きく動いています。米中対立をはじめ、地政学的リスクや各国の保護主義的な政策の広がりなど、経営環境はこれまで以上に不安定化しています。

自動車産業では、中国製のBEV(バッテリー式電気自動車)やバッテリーの圧倒的なコスト競争力が世界で示される こととなりました。これに対し、欧米諸国が規制や関税を通して自国の産業を守る動きを強めたことが、結果としてグ ローバルなBEV化の波を遅らせることにつながっています。 HEV(ハイブリッド自動車)やPHEV(プラグインハイブリッド自動車)などへの再評価の高まりは、内燃機関をベースにした技術を強みとする当社にとって重要な意味を持ちます。

また、経済安全保障の観点から各国が自国での半導体産業育成に注力を始めています。これが当社の半導体製造装置用製品の事業では、一時的な追い風となる側面もあります。ただし、経済のブロック化が進み、自由貿易体制が崩れていくことは、長期的に見れば日本にとって決して望ましいことではありません。

経営環境が極めて速いスピードで変化する中で、当社としてその変化に本当に適応できているのか。戦略や体制が、 現実に追いついているのか。そうした問いを自らに投げかけ続けた一年でもありました。変化に柔軟に対応すること、目線をより外に向けることの重要性を強く感じています。

不確実な外部環境の中で挑む、2025年度目標の見通し

NGKグループビジョンでは、2025年度に売上高6,000億円、営業利益900億円、当期純利益600億円、ROE(自己資本利益率)10%、配当性向30%、1株当たり純利益200円という業績目標を掲げています。営業利益900億円の達成については、現時点ではやや慎重に見ていますが、その他の指標については、まだまだ達成可能と考えています。

営業利益については、インフレや関税影響によるコスト増や不採算事業の改善不足等により目標未達となる見込みで すが、営業利益を厳しく見ている背景には、外部環境の不確実性があります。特に、米国の関税政策がどのように動くか は、当社のビジネスに直接的に影響し得るものです。自動車関連事業では、関税引き上げにより自動車メーカーの収益が悪化すれば、そのサプライチェーンにも値下げ圧力が強まることが懸念されます。

また、ドイツの総合化学メーカーBASF社と協業している NAS電池についても、次のステージに進めるかどうかの実現性やタイミングが見えにくい状況にあります。海外案件は一定の売り上げにはつながっているものの、原材料価格の上昇もあり、収益の確保には至っていません。今後の事業性をあらためて見極めていく必要があると考えています。

一方で、明るい兆しも広がっています。DS領域では、生成AIの急速な普及により、データ量がかつてないペースで拡大しており、それに伴って半導体製造装置の需要も大きく伸びています。半導体産業の市場規模は2030年に向けて 倍増が見込まれており、データセンター関連の設備投資も堅調です。2025年度は、昨年度と比べてもさらなる業績向上を期待しており、当社が進む大きな方向性は間違っていないと確信を強めるところです。

PBR水準の向上に向けて

数年にわたりPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている現状については、経営者として非常に重く見ています。当社では企業価値向上のために「資本収益性の向上」「成長性の確保」「非財務価値の向上」の3つの軸で取り組みを進めていますが、現時点では十分に満足できる成果が出ているとはいえません。中でも株価に直結する「資本収益性の向上」は、ROE10%を一つの目標として全社で取り組んできましたが、残念ながら2022年度以降はこの水準に届かない状況が続いています。

その要因の一つが、業績が赤字であったり、社内基準のNGK版ROIC(営業利益÷事業資産)を満たしていなかった りする不採算事業に対して「もう少し頑張れば立て直せるのではないか」と粘ってきたことにあります。それが結果とし て、企業全体の収益の押し下げにつながっています。事業を 「立て直すか、撤退するか」という判断に、明確な期限を設けてこなかったことは、大きな反省点だと受け止めています。

私自身、過去に海外事業の整理をした経験があり、「歴史ある事業を残したい」「なんとか頑張って黒字化したい」と 考える現場の思いは痛いほどわかります。それでも、会社全体での収益力の改善を考えたとき、時にはつらい決断を下 すのがトップの責務と認識しています。

2024年度に新たに就任した3名の方々を含む歴代の社外取締役が、こうした経営判断の後押しとなっている側面もあります。「儲からないならやめるべき」という厳しくも率直な意見には合理性があり、社内でも納得感をもって受け止められています。私は、撤退を決断する際には自らの判断で行う覚悟を持っていますが、このような外部の視点があることは、企業としての判断の質とスピードを高める上で大きな役割を果たしています。

株主還元についても着実に取り組んできました。配当性向はおおむね30%を維持しつつ、毎年100~150億円の水準で自己株式取得を継続しており、配当と合わせた総還元性向は50%を超える実績を残しています。当社は今後も成長と還元の両立を図り、資本収益性を向上させます。

変化に応える、事業構成の転換

既存事業の選択と集中で「稼ぐ力」を高め、企業価値のさらなる向上を図ります

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当社の事業構成は、これまで100年以上にわたって、時代や社会の変化に応じて柔軟に再編を重ねており、現在もその姿勢が変わることはありません。短期と中長期それぞれの明確な方針の下、事業ポートフォリオの転換を進めていきます。

まず短期的には、既存事業が持つ収益力の最大化が不可欠です。エンバイロメント(EN)事業では、近年、中国製BEV の台頭によって市場構造が大きく変化し、EV化の進展が鈍化したことにより、5年程度は進行が後ろ倒しになった印象 があります。内燃機関への揺り戻しが起こる中、当社が長年培ってきたこの分野の製品には、今なお安定した需要があります。他社が撤退を進める中でも高い競争力を維持してきた領域であり、「残存者利益」を着実に確保していきます。 これにより、EN事業を収益基盤として、CN・DSを成長分野として育てていきます。

一方、収益性に課題がある事業については、選択と集中をこれまで以上に意識していきます。当社では、事業ごとに 「NGK版ROIC」と「売上成長性」という2軸での評価を行っておりますが、いずれの観点でも改善が見込めない事業については、今後、明確な期限を定めて対応を判断していきます。一部の事業、例えばNAS電池や水晶パッケージなどについては、引き続き市場環境を注視しながら、あらゆる可能性を視野に入れていきます。人材の再配置を含め、成長が 期待できる分野にこそ、経営資源を集中的に投入していきます。

NV1000の進捗と成長戦略

CN/DS領域で新たな成長の柱を育て、「New Value 1000」の実現に挑みます

中長期視点では、当社は「New Value 1000」(NV1000)として、2030年に新事業化品売上高1,000億円以上とする目標を掲げています。これは、CNおよびDSの2つの領域において、社会課題の解決に直結する新たな事業を生み出していく取り組みです。開発フェーズのテーマを含め2,000億円規模のポテンシャルを見ており、目標に対して着実に前進しているという実感を持っています。DS領域では、半導体産業の拡大に合わせて、当社が強みを持つセラミック製の製造装置部材、とりわけ治具・サポートウエハーの「ハイセラムキャリア」のビジネスが想定を上回るスピードで伸びています。爆発的なデータ量の増加と生成AIの普及が進む中で、高価格帯の半導体を支える製品であり、「ハイセラム」の特徴である透光性と高い剛性が評価され、お客さまからの引き合いは一段と強まっています。この分野での需要拡大を確実に取り込むため、供給力強化を進めていきます。

CN領域では、脱炭素社会に不可欠な技術として、大気中の二酸化炭素(CO2)を直接、吸着・回収する「ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)」用セラミックスや、混合ガス・混合液から特定の気体や液体を分子レベルで分離する「サブナノセラミック膜」の研究開発に注力しています。これらは、2030年代前半に向けて本格的なニーズ拡大を期待しており、「2030年まではDS領域、2030年以降はCN領域も」という予測の下、NV1000の中核を担うものとして重視しています。こうした分野での技術の社会実装では、当社単独での取り組みには限界があり、世界のさまざまなパートナーとの協業が伴を握ります。M&Aも一つの有力な手法として考えています。現在、188年の歴史を持つドイツのBORSIG社の買収を進めており、当社に欠けていた機能や新たな顧客基盤を獲得したいと思っています。当社のセラミック素材にBORSIG社のエンジニアリングのノウハウを融合する、あるいはBORSIG社が強みとする有機膜に当社のセラミック技術を組み合わせるなど、さまざまなシナジー効果が期待できます。共創型のM&Aとしての事業展開で、より付加価値の高い製品・ソリューションを社会に届けていきます。なお、NV1000の1,000億円目標には、BORSIG社の売り上げは含んでおらず、上乗せの成長を担うものとして位置づけています。

マーケットインの発想で、技術を価値に変える

当社の最大の強みは、100年を超えて培ってきたセラミックスに関する技術力・洞察力にあります。これまで私たちは、お客さまからの難しい要望を受けたときにこそ真価を発揮し、数々の技術的ブレイクスルーを実現してきました。

ただ一方で、最終ユーザーの声に触れる機会は限定的という、部品メーカーならではの立ち位置もあります。今後も 当社が高い価値を生み出し続けていくためには、「今何が求められ、どんな課題があるか」を市場の声から捉える「マー ケットイン」の視点が極めて重要です。技術力を市場ニーズに結び付けるべく、3年前にはNV推進本部を立ち上げ、研究開発本部と製造技術本部との連携の下、テーマ創出と事業化を加速させてきました。

また、当社のセラミックスへの知見の背景には、数多くの成功と失敗の積み重ねがあります。「これを試みたが、このような理由で成功しなかった」という各人の経験は、実験・技術検証の結果として、世代を超えて受け継がれてきました。 こうした知の蓄積が、近年ではマテリアルズ・インフォマティクス(MI)によってデータ化され、未来の技術革新の基盤となりつつあります。MIの活用には、材料開発期間を10分の1 にまで短縮できる可能性があると見ており、大きな期待を寄せています。さらに、MIに限らずDX推進は不可欠であり、生成AIなどの最新技術を積極的に取り入れ、新規用途探索の高速化や業務の効率化を図っていきます。

知的財産の活用についても、既存事業に対する「守り」から、新規事業創出のための「攻め」へと転換を進めています。 IPランドスケープを用いて技術・市場動向の分析を強めながら、事業戦略・開発戦略・知財戦略を三位一体で推進していきます。

挑戦する人材が、NGKグループの力となる

人、技術、知財。経営資源を生かしきり、社会課題の解決に貢献します

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人的資本とは、まさにNGKグループの原動力そのものです。人が考え、技術を生み、設備を作り、事業を動かしてき た。その積み重ねによって、当社はここまで成長してきたのであり、それは今後も決して変わることはありません。

ただ、現在は社会や市場の変化が極めて激しく、これまでと同じやり方が通用しない時代に入っています。NGKグループには真面目で誠実な人材が多い一方で、「失敗を避けるため、リスクをとらない」という慎重さが弱みにもなり得ます。NGKグループ理念の中で「人材挑戦し高めあう」を掲げるように、すべての従業員が「挑戦」を自分ごととして捉え、 日常の中で一歩を踏み出すことが重要です。新事業を立ち上げるような大きな挑戦だけでなく、新しいやり方を試してみる、海外案件に手を挙げてみる―そうした一つひとつの小さな挑戦が、会社全体を動かす力になると信じています。

人事部門でも、挑戦に応える仕組みの強化を進めています。基幹職新人事制度を導入したのもその一つです。適材適所な配置をスムーズにするとともに、これからの変化の激しい時代を勝ち抜いていくために、専門性を極めたいと考える従業員に、活躍の場を提供していきます。

また、国内外の従業員の多様な意見や視点を生かすことも欠かせません。同質性の高い組織は安定感がある反面、 新しい事業を生み出していくスピードには限界があります。がいしやハニセラムといった世界同一品質を強みに成長してきた当社だからこそ、異なる価値観や背景を持つ人々が活躍できる環境を、意識的に整えていく必要があります。 AIの進展で言葉の壁はどんどん低くなっており、海外従業員の声を一層経営に反映し、ベストプラクティスを共有していきます。さらに、キャリア採用も含め、多様な経験やスキルを持つ人材を積極的に受け入れていきます。

こうした当社の人的資本についての考えをまとめて「NGKグループ人的資本経営方針」を策定し、国内グループ会社と意見交換を行いました。今後も従業員との対話を重視しながら方針浸透を図り、グローバルな人材戦略をより強化していきます。

社会から必要とされ、信頼される企業であるために

2026年春、当社は「NGK株式会社」へと社名を変更します。背景には、当社の現状と未来を見据えた強い意志があ ります。現在、がいし製品の売上高は全体の1割未満にとどまり、当社の中核事業は大きく転換しています。また、売上高の約7割が海外、従業員の6割以上が外国籍である今、海外では「NGK」というブランドがすでに広く認知され、社内外からその社名への移行を望む声が高まっていました。この変更は、NGKグループビジョンに掲げる事業構成の転換と、グローバル市場での価値向上という、私たちの次 なるステージへの決意を映したものとなっています。

私たちは独自のセラミック技術を核に、社会課題の解決に挑み続けてきました。この基本姿勢は、時代が大きく変化 する中でも決して揺らぐことはありません。たとえ困難なテーマであっても、挑戦を恐れず、技術開発を止めることな く、社会にとって本当に価値ある製品を生み出し続けます。新社名の下でも、こうした技術や製品の提供を通じて、社会 から必要とされ続ける会社でありたいと考えています。

社長としての私の最大の目標は、すべてのステークホル ダーの皆さまに「誇り」と「信頼」を持っていただけるNGK グループを築くことです。その実現に向けて、これからも変革と挑戦を続けてまいります。

(インタビューは2025年4月に実施)