世界は水素社会に向かう
化石燃料に代わる次世代エネルギー源として期待されるのが水素です。これまで、欧州や日本をはじめ世界各国・各地域で水素社会を目指す行動指針が策定され、実証的な取り組みがさかんに行われてきました。事業化が始まった国もあり、水素社会に向けた商業活動が本格化する兆しが見られます。
水素が将来のエネルギー源として注目されているおもな理由は、燃焼によってCO2を排出しないため、大きなCO2削減効果が期待できること。もう一つは、地球上に広く存在する多様な原料から製造できることです。
水の電気分解のほか、天然ガスや石炭・石油、アルコール、さらにバイオマスや廃プラスチックなどからも製造が可能です。また、発電・輸送・製造などに活用できる用途の広さや貯蔵・運搬のしやすさも利点とされています。
グリーン水素は脱炭素への鍵
CO2削減に最も効果的なのは、太陽光や風力など再生可能エネルギー由来の電力で水を電気分解(水解)して水素を製造し、これを利用することです。
再エネでつくられた「グリーン水素」なら、製造から利用までCO2を排出しない脱炭素が見込まれます。2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする各国の目標を達成する鍵がグリーン水素です。
グリーン水素の事業化には、水解をできるだけ高い変換効率で安定的に行う必要があります。この目的に一役買うのが大容量蓄電池「NAS(ナス)電池」です。長時間の連続放電が可能なNAS電池は、再エネ電力をいったん貯蔵して必要な時に使用できるので、一定の出力で水解を行ない、安定した水素製造が可能になります。
NAS電池の活用で、安定した
グリーン水素製造が可能に
再エネ発電は天候に左右されることが多いので、安定した電力供給には気象条件の良い時に発電した電力をいったん蓄え、必要に応じて供給するしくみが不可欠です。再エネ電力の需給調整になくてはならないのが、信頼性の高い大容量蓄電システムです。
大容量蓄電池で電力供給を安定化
再生可能エネルギーは出力変動が大きい
NAS電池の充放電で電力量を安定化
世界初のメガワット級大容量蓄電池であるNAS電池は、負極がナトリウム(Na)、正極が硫黄(S)で、βアルミナのセラミック固定電解質を介して充電と放電を繰り返します。長寿命でエネルギー密度が高いため、メガソーラーなどに併設すれば、発電装置の耐用年数を十分にカバーする安定した電力供給が実現します。
NAS電池の単電池
大規模電気分解に最適なNAS電池
水の電気分解には、アルカリ型、PEM型などいくつかの方式があります。アルカリ型は安定的で大規模な水素製造が得意、PEM型は装置のコンパクト化が可能で電力の入力変動に優れた応答性を持っています。
NAS電池はアルカリ型の水解装置と親和性が高いので、大規模な水素製造に必要かつ最適なインフラになりそうです。
日本ガイシのNAS電池は、長時間の電力貯蔵に適しており、高出力かつ20年の長寿命のため、再エネ電力の安定化と効率的な水素製造をより低コストで実現させます。このため、グリーン水素製造においても活用が見込まれています。NAS電池は水素社会の実現に一役買うと同時に、世界でグリーン水素製造を実現させる後押しとなるでしょう。
※「NAS」は日本ガイシの登録商標です
NAS電池
ライター
古郡 悦子ふるこおり えつこ
科学技術ジャーナリスト
東京大学理学部化学科、教養学部教養学科を卒業。製薬会社に勤務するかたわら、科学雑誌に記事を書くようになり、研究者や技術者を取材するワクワク感にはまった。以来、科学・技術とその周辺について記事執筆、調査、企画、編集などを手がける。MIT科学ジャーナリズムフェロー、サイテック・コミュニケーションズ創業メンバー。