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Beyond 5G

熱膨張しにくい複合ウエハーでつくる
SAWフィルターが、
通信用デバイスの高度化を実現

Beyond 5Gに必要不可欠なSAWフィルターの高性能化

スマホは社会の重要なインフラとなっており、5G(第5世代通信システム)の次のBeyond 5Gに向けた技術開発が加速しています。目指すのは、5Gのさらに上をいく「大容量・多数同時接続・超低遅延」通信です。

こうした通信では電波を幅の狭い多数のチャンネルに分けて使うため、「SAWフィルター」の性能が重要になります。
SAWフィルターは1mm角ほどの部品で、ハイエンドのスマホには100個近く搭載されています。圧電体(電圧をかけると伸び縮みする材料)の基板の表面を伝わる表面弾性波(SAW)を利用することで、特定の周波数の電波だけを通します。
出てくる電波の周波数は電極の間隔で決まりますが、作動中のSAWフィルターの温度は上昇するため、圧電体が熱膨張して電極間隔が広がってしまいます。
その結果、出てくる電波の周波数がずれてしまい、ノイズをうまくカットできなくて通信品質が低下するという問題があります。

日本ガイシの複合ウエハーが、周波数のずれが起こりにくいSAWフィルターを実現

この問題を解決するのが、日本ガイシの複合ウエハーです。圧電体をシリコンの土台の上に貼った複合ウエハーでSAWフィルターをつくれば、熱膨張しにくいシリコンが圧電体の膨張を抑えるため、電極間隔が変化しにくく、周波数のずれはほとんど起こりません。

熱膨張を抑えることで、通信品質が安定します

[従来のSAWフィルター] 圧電体のみ(熱で伸縮しやすい) [複合ウエハーを使用]支持基盤を貼り合わせる(熱で伸縮しにくい)

熱膨張を従来品の1/3以下に抑制し、ノイズをしっかりカット

この複合ウエハーをつくるには、まず、シリコンと圧電体のウエハーの表面を活性化させてから両者を接合し、次に、圧電体の表面を高精度研磨して、望みの厚みにします。この技術の大きな利点は、圧電体の優れた性能を保ったまま薄い層にできることです。
室温で接着剤を使わずに異なる材料をしっかり直接接合しているため、できあがった複合ウエハーは熱加工による歪みがありません。耐薬品性が高く、接着剤を溶かすような薬品を使った加工もできます。

複合ウエハーから、光通信用デバイスも製造可能

複合ウエハーの材料は、圧電体(機能層)とシリコン(支持基板)だけではなく様々な組み合わせが可能です。Beyond 5Gでは、5G用よりもさらに性能の高いフィルターが必要になると予想されていますが、複合ウエハーなら、そうしたフィルターも十分に実現できます。
また、高性能な光デバイスも、複合ウエハーから製造できます。このデバイスは、スマホの基地局どうしをつなぐ光通信ネットワークの入り口に使われるもので、基地局間の通信を高速化するのに貢献します。

通信以外にも拡がる、日本ガイシの複合ウエハーの可能性

複合ウエハーの用途は、通信以外にも大きく広がっています。
その一つは、センサーです。例えば、レーザー光を使って物体を検知するLiDARという技術は、自動車の自動運転の実現に欠かせませんが、この技術に必要な光センサーを複合ウエハーからつくることができます。
さらに将来は、光を利用する量子コンピュータの中核となる光集積回路も、複合ウエハーの特性を生かすことで実現できそうです。

異なるセラミックスを重ねるという一見シンプルな日本ガイシの独自技術は、「大容量・多数同時接続・超低遅延」通信の時代を支えるのみならず、その先の先端技術の実現にも大きく貢献すると期待されています。

複合ウエハー

SAWフィルター用複合ウエハー(左)と、他の圧電体を用いた複合ウエハー

ライター

青山 聖子あおやま せいこ

科学技術ジャーナリスト

お茶の水女子大学・同大学院で化学を専攻。ファンディング・エージェンシーで広報にかかわった経験や、化学雑誌で取材や編集を行ってきた経験を生かし、サイテック・コミュニケーションズで研究機関や技術系企業の広報媒体(ニュースレター、ウエブページなど)を制作している。いくつかの大学でサイエンス・ライティングも教えている。

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