ceramic academy
course 03セラミック材料ものづくり講座 02

「練る」

滑りと粘り

成型が自在で、くっつきやすい原料を作ることが「練る」工程の大事な点です。がいしやハニセラムの製造だけでなく、陶芸やパン作りでも、原料の粒子一つ一つの滑りがよくなければ思うように形作れません。一方、粘りがなければ、あんパンを作るときにうまく閉じられなかったり、陶芸でカップを作るときに取っ手がなかなか着かなくなってしまいます。うまく着かないとそこに隙間を残すことになり、焼いたときに割れる原因になります。

原料を密着させる

原料に滑りや粘りを出すためには、粘土やバインダーが欠かせません。日本ガイシでは製品に合わせて、この2つを使い分けたり組み合わせたりしています。「練る」工程では、混ぜることで均質に分散させた粘土やバインダー、水、その他の原料に力をかけてなじませ、さらに原料内の空気を抜いて、成型しやすいように一つの塊にします。粘土粒子の隙間やバインダーに水が入り込み、潤滑油のような働きをして、滑りを出すと同時に、水と密着して粘りを出し、他の原料粒子同士をくっつけるのです。このとき、原料に粉体が多い場合には、粉同士の摩擦力に打ち勝つ力が必要になります。

微妙な力加減がポイント

では大きな力でとにかく練り続ければいいのかというと、そうでもないのが難しいところです。お餅もパン生地もただ力を込めて長時間練ると、味も風味も損なわれる上に、乾燥し始めてしまいます。セラミック原料の場合は、練り続けることで原料の硬さや粘り強さがどんどん変化していきます。製品それぞれの成型方法に合わせた硬さと粘り強さのバランスをとるため、微妙な力加減と時間の調整が重要なのです。バインダーが入ったセラミック原料の場合では、練り続けることで粒子同士の滑りやすさは上がるものの、バインダーがズタズタに切られて乾燥後の糊としての性能が落ちてしまうことが知られています。つまり、せっかく形づくった製品が、乾燥後にバリバリに割れてしまうという現象が起こるのです。

そのため日本ガイシでも、作りたいものに応じて、餅つき機のような小さい力のものから、周りから圧力をかけながら2軸の大きな羽根でかき回すという強い力のものまで機械の使い分けをしています。

「練る」の解明

「練る」工程で重要なのは、成形時に型の形状にそって形を変えやすいくらい柔らかく、なおかつ成形後にその形を保持できるくらい硬い土にすること。原料粒子と水やバインダーを隙間なくなじませて密着させるほどの強さで、なおかつバインダーを壊さない程度の力を最適な時間をかけて加える。文章にするとたったこれだけのことですが、そのメカニズムはまだ十分に解明されていません。特に「滑りやすい」、「粘り強い」という相反する特性のバランスが土の優劣を決めるのですが、数値化が難しく、従来は職人の触感に頼るところでした。

日本ガイシはこれに対し『NGK式硬度計』をはじめ、現在では各種の*レオロジー測定などで、より科学的な分析を試みています。土の評価を通じて「練る」工程の本質をとらえ、装置や操作条件を最適な状態にして、よりよいセラミック製造プロセスへ導けるように研究を行っています。

※レオロジー:物を変形させる時にどれくらいの力がいるか、どれくらい変形したかという性質を調べること。粘度、硬度などを、視覚や触覚からではなく数値的にとらえる。

参考文献
助剤でこんなに変わるセラミックス (株)ティー・アイ・シー