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course 02セラミック材料基礎講座・応用編 07

誘電体講座 02

LTCC

誘電体セラミックスは、通常1200~1400℃程度の温度で焼結します。それを使った電子部品は、焼結した誘電体セラミックスの外側に電極を形成する製法が一般的でした。しかしこれではセラミックスの内部に電極を形成することはできません。そこで、導体とセラミックスを同時焼成する製法が開発されました。導体としては電気抵抗の小さな銀または銅を使うと損失が少なくなります。しかし銀や銅は融点が低く、銀は962℃、銅は1085℃ですから、これらの融点より低い温度で焼結しなければなりません。そこで誘電体セラミックスにガラスなどを添加し、900℃程度で焼結できるようにしました。こうして得られたセラミックスを低温同時焼成セラミックス(Low Temperature Co-fired Ceramics)、略してLTCCといいます。もともとは配線基板用として開発された技術ですが、最近では誘電体セラミックスで広く使われるようになりました。

LTCCの製法は次のようになります。
まず誘電体セラミックスとガラスなどの焼結助剤より成る原料粉末、有機バインダー、可塑剤と溶剤を混合し、スラリーというどろりとした液状の混合物を作り、ドクターブレード成形機という装置でグリーンシートを成形します。グリーンシートは柔軟性のある、厚さ20~100µm程度のシートです。それを扱いやすい大きさのブランクに打ち抜き、必要に応じて上下に接続するためのビア(貫通孔)を開け、そこに銀などの導体を含んだペーストをスクリーン印刷法という手法で、ビアの中およびグリーンシート表面に印刷し、電極を形成します。 さらにこれらを正確に積み重ね、加熱加圧により積層して一体化した後、焼成します。こうして内部に電気回路が3次元に構成された電子部品ができあがります。

グリーンシートと電極の構成
図4.グリーンシートと電極の構成

アプリケーション

一般的には誘電体セラミックスの最も多い用途はコンデンサーです。しかしコンデンサー以外にもさまざまな機能を持った部品があります。例えばLTCCで作られたマイクロ波通信で使われるフィルターなどです。

マイクロ波の定義は明確ではありませんが、一般的に周波数300MHz~300GHz(波長1mm~1m)の電波を指します。身近なところでは携帯電話、無線LAN、ブルートゥース、ETCなどが、1GHz~6GHzの周波数を使っています。

フィルターとは、通信の世界では特定の周波数の電波を選択して通す部品のことで、例えば無線LANでは2.4GHzや5GHzの周波数の電波だけを通すフィルターを使います。フィルターはコンデンサーCと、コイルLを使って「共振回路」を作り、フィルターとするのが一般的ですが、1GHzを超えるような高周波の電波では誘電体の中で電波を共振させるという手法を使います。これは音叉が共鳴箱で共鳴するのと同じで、誘電体で、ある特定の大きさの「箱」を作っておくと、その大きさに合う特定の周波数だけが共振(共鳴と同じ)する性質を使っています。

実際の共振器は図5のような構造で、共振器と書いてある長さLrの電極と、その下のグランド層との間で共振します。共振器の長さLrは、誘電体の比誘電率と通過する電波の波長で決まり、誘電体の比誘電率の1/2乗に反比例し、波長に比例します。ですから誘電体の比誘電率が高いほど、波長が短い(周波数が高い)ほど共振器は小さくなります。積層する層数は共振器以外の回路も含まれることが多く、20層程度になります。

できあがったフィルターの外観は図6のようになっており、例えば2.0×2.5×1.0mmという小さな部品となっています。

共振器の構造
図5.共振器の構造
積層誘電体フィルター
図6.積層誘電体フィルター
参考文献
・小田切 正 「マイクロ波通信用LTCCの開発」、LTCCの技術と応用、山本孝監修、p179-190、シーエムシー出版 (2005)
・小田切 正 「マイクロ波通信用LTCCの材料特性と回路設計」、マテリアルステージ 2006年4月号、p73-80、技術情報協会