パラジウムが水素を透過する現象は、1866年にGrahamによって発見されました。これをもとにパラジウム管を使用した半導体製造装置向けの水素精製装置が製造・販売されていますが、パラジウム膜の厚さが60~100μmと厚いため、水素の透過速度が小さく用途は限定されていました。しかし、1988年に早稲田大学の菊池教授らによって、多孔質基材上に6~20μmのパラジウム薄膜を成膜することにより、従来よりも一桁高い水素透過速度が得られることが実証されました。この報告以後、パラジウム薄膜の研究が活発化しています。パラジウム薄膜の作成方法としては、これまでに圧延法、めっき法、化学気相堆積法(CVD法)などが検討されています。
パラジウムにおいては、以下の1~7の過ほどを経て水素が透過すると考えられています。
このように、プロトンとなり得る水素だけがパラジウム膜を透過し、他の分子はパラジウム膜を透過できません。このメカニズムを応用すると、パラジウム膜を水素精製に用いることができます。
パラジウム膜の水素透過機構を模した動画を見ることができます。
動画を再生するパラジウム膜の水素透過量J(Nml/min・cm2)は次式で示されます。
J=α(PH2(1)1/2-PH2(2)1/2)
ここで、αは水素透過速度、PH2(1)は原料ガス側の水素分圧、PH2(2)は透過ガス側の水素分圧です。水素分子が解離して原子状になることから、水素透過量は原料ガス側及び透過ガス側の水素分圧の平方根の差に比例します。また、水素透過速度は膜厚に反比例します。従って、水素透過量は原料ガス側及び透過ガス側の水素分圧の平方根の差が大きいほど、また、膜厚が薄いほど大きくなります。
パラジウムは、300℃以下では水素の固溶によって約10%もの体積膨張を生じます。そのため、パラジウム膜に低温で水素の吸収と放出を行うと、膜が破壊されます。この体積膨張の低減には、パラジウムに銀や銅などを添加することが効果的であることが知られています。特に銀を20~25%添加することが、体積膨張の低減だけでなく、水素透過量の増大にもつながることが分かっています。
パラジウム薄膜を水素分離に応用することにより、燃料電池に適した高純度水素を効率よく精製することができます。そのため、パラジウム膜は、水素社会のキーデバイスとして期待されています。