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スマートロジスティクス

コールドチェーンへのスマートロジスティクス導入に最適。
-40℃でも高出力を保つ蓄電池EnerCera

スマートロジスティクスによる輸送中の温度監視に期待

IoTなどの最新技術を用いて、物流の効率化や環境負荷の低減を目指すスマートロジスティクス。貨物や通い箱などに無線タグをつけ、インターネットに接続することで、貨物の位置を追跡したり、無人で仕分けを行ったりすることが可能になっています。

中でも、近年期待が高まっているのが、医薬品や食品を製造場所から消費場所まで冷蔵または冷凍状態で運ぶ「コールドチェーン」への適用です。薬品のGDP(医薬品の適正流通)や食品のHACCP(危害要因分析重要管理点)などにより、厳密な温度管理が求められる中、温度センサーと一体化した無線タグを使うことで、輸送中の温度を監視・記録しようというわけです。

EnerCeraは小型・薄型のタグに内蔵でき、低温でも高い出力

しかし、コールドチェーンで使えるような小型・薄型のタグはこれまでありませんでした。
ネックとなっていたのは、タグに内蔵する電池です。既存の乾電池やボタン電池は、低温では出力がすぐに落ち、タグの動作が不安定になってしまいます。出力低下を補うために大型の電池を使うと、今度はタグが大型化してしまいます。

こうした問題を一気に解決するのが、日本ガイシが開発した切手サイズの蓄電池「EnerCera(エナセラ)」です。
この電池は、広く使われているリチウムイオン電池を独自のセラミック技術で小型・薄型にしたもので、小さいのに電気をたくさんためることができ、しかも、-40℃でも高い出力を保ちます。

日本ガイシは正極の構造を革新し、理想的な電池を実現

いいことずくめのこの電池は、正極の構造を改善することで誕生しました。リチウムイオン電池の性能を高めるには、正極中のイオンの流れを速くすることが重要なため、日本ガイシは正極の構造に着目したのです。
従来電池の正極は、コバルト酸リチウムの粉末(とても小さい結晶の集まり)を有機バインダーと混ぜ合わせて固めることで製造されていますが、結晶の向きがばらばらのため、イオンが出入りしにくいという問題がありました。

そこで、日本ガイシでは、有機バインダーを加えずに、コバルト酸リチウムだけからなり結晶の向きの揃った正極(これを「結晶配向セラミックス板」と呼んでいます)を開発。
これによりイオンが高速で移動できるようになり、高出力化が達成されました。低温でも、出力はほとんど落ちません。しかも、有機バインダーを加えないため、従来と同じ体積でためられる電気の量が大幅にアップ。コールドチェーン用のタグに最適の電池が実現したのです。

結晶の向き

結晶の向きが揃っているため、イオンが高速で移動できる

充電手段が多様、パウチ型は曲げることも可能

この電池は、太陽光や室内光によって発電した電力や、開発が進むマイクロ波給電により手軽に充電できるので、乾電池のように電池を交換する手間もかからず、環境負荷も抑えることができます。
パウチ型とコイン型の2タイプがあり、このうちパウチ型は曲げることもできます。
産地からワインを取り寄せたら、瓶に貼ったタグで記録した輸送中の温度が報告される――そんな日も近そうです。

※「EnerCera(エナセラ)」は日本ガイシの登録商標です

小型のリチウムイオン二次電池「EnerCera」

ライター

青山 聖子あおやま せいこ

科学技術ジャーナリスト

お茶の水女子大学・同大学院で化学を専攻。ファンディング・エージェンシーで広報にかかわった経験や、化学雑誌で取材や編集を行ってきた経験を生かし、サイテック・コミュニケーションズで研究機関や技術系企業の広報媒体(ニュースレター、ウエブページなど)を制作している。いくつかの大学でサイエンス・ライティングも教えている。

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