ガバナンス
社外取締役座談会

持続的成長に向けた議論を充実させ、監督機能をしっかりと果たしていく

NGKグループがNGKグループビジョン実現に向けて持続的に成長していくためには、社外取締役の客観的視点や多様な経験に裏打ちされた助言が不可欠です。取締役会が果たすべき役割、今後の課題や期待について、社外取締役の皆さまに語っていただきました。

(司会進行:ESG推進部部長 野尻 敬午)

2022年度を振り返って

社外取締役 蒲野 宏之の写真

野尻 最初に、この1年を振り返って感想などをお聞かせください。

蒲野 2022年度は、長引くコロナ禍の影響はもちろんのこと、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原材料価格やエネルギーコストの高騰、急激な円安進行や為替変動など、社会を取り巻く環境がめまぐるしく変化した1年でした。VUCAの時代といわれる通り、先の予測が難しい状況が続いています。そんな中で、NGKグループは、NGKグループビジョンの方針に則り、守りと攻めのバランスを取りながら着実に歩みを進めてきたという印象です。

V=Volatility(変動性)、U=Uncertainty(不確実性)、C=Complexity(複雑性)、A=Ambiguity(曖昧性)。先行きが不透明で将来の予測が困難な状態のこと。

浜田 繰り返されるコロナの波とコスト上昇が重なるなどして、どこの企業にとっても舵取りが難しい1年だったように思います。しかしながら、NGKグループにはNGKグループビジョンという軸があり、将来の方向性が明確だったことで、軸をぶらさずに一体感を持って進められたと思います。

古川 環境が激変する中で、「我慢」と「備え」を実行した1年だったと感じています。組織のスリム化、意思決定のスピード化を図るべく4事業本部から3事業本部へと体制を変え、2030年に新事業化品で1,000億円を目指す「New Value1000」(NV1000)を掲げてスタートを切りました。新たなビジネスを創出するというのは、そう簡単にいくものではありませんが、NV推進本部が中心となって、外部機関との連携なども進め、失敗を恐れず挑戦する様子に頼もしさを感じています。

野尻 ガバナンス面における外部環境の変化についてはいかがでしょうか。

蒲野 今春、東京証券取引所より上場企業に対して、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応、株主との対話の推進とそれに関する開示について要請がありました。取締役会はNGK版ROICの活用によって資本効率の向上を図ってきていますが、今後は自社の資本コストや資本収益性の現状分析・評価などの掘り下げを行い、それをふまえた改善策などを議論していく必要があります。

古川 情報開示に関しては、従前よりホームページを通じた情報発信が非常に充実しており、現時点でも十分対応できていると思います。また、株主との対話については、この数年はコロナ禍の影響で直接対話の機会が減っていましたが、今後は徐々に増やしていけるはずです。

浜田 2023年3月期決算より人的資本の情報開示が義務づけられたことで、人的資本経営に対する取り組みが重要となってきます。そのような変化に対応し、先頃、NGKグループ人的資本経営方針を策定しました。現在、人材育成や社内環境整備などについてさらに具体的な議論を進めている最中です。私からは、主に女性活躍を含め、ダイバーシティ推進についてアドバイスをしています。

自由で建設的な議論の場として機能している取締役会

野尻 ガバナンス実効性の核ともいえる取締役会についてお伺いします。取締役会での議論や雰囲気についてお聞かせください。

蒲野 2022年度の取締役会での決議は71件で、経営戦略、予算、ガバナンスについてなど、相当な数の審議を行ってきました。基本的に和やかな雰囲気ですが、経営戦略や事業計画に関する話し合いとなると、皆さんの中にある「会社を成長させよう」という想いがぶつかりあって、時には厳しい議論になることもあります。

浜田 非常にありがたいのは、取締役会の前に、社外取締役に対して議題などについてヒアリングの機会があることです。毎回十分な時間を取って丁寧に説明していだだけるので、背景や現況などを理解した上で取締役会に臨むことができています。また、最近の取締役会の傾向として、グループ視点での議論が充実してきていると感じています。

古川 取締役会が少人数化されたことも相まって、近年は社内取締役と私たち社外取締役とのやりとりが一段と活発化し、監督機能も向上していると思います。私自身、製造業出身ということもあり、事業の進捗や開発の状況の深い理解に努めていますが、一歩引いた外部からの視点を大切にしつつ、経験に基づいた意見や助言を伝えるよう心がけています。

野尻 1年を通じて多くの審議を行ってきた中で、どのような議案・決議が印象に残っていますか?

浜田 時間をかけたのは、大型蓄電池「NAS電池」に関する審議で、議論も毎回白熱しました。NAS電池については技術背景、実用化例とその効果、将来の展望などを詳しく説明いただくとともに工場見学もさせていただき、未来を支える重要な技術であり、社会的に意義のある事業と理解しています。ただし、利益につなげるという点で、もうひと工夫、ふた工夫必要と見ています。

古川 脱炭素化の重要性が増す中、蓄電池には大きな期待が寄せられており、今このタイミングで蓄電池のシステム化に取り組むことに意義があると思います。NAS電池を通じて世の中にエネルギーソリューションを提供するために、ビジネスのシナリオをどうつくっていくか、課題は多々ありますが100年の歴史を持つ日本ガイシならできると思っています。

蒲野 私は、知多事業所でのがいし製造中止の決議が印象に残っています。祖業であるガイシ事業の縮小は大きな決断でしたが、近年のがいし需要の低迷、「モノ」から「コト」へのシフトという背景に鑑み、NGKグループが未来を見据えて事業ポートフォリオの最適化に一歩進むためには必要なことだったと思っています。

課題を克服し、NV1000達成を

社外取締役 浜田 恵美子の写真

野尻 事業環境が激変する中、NGKグループが克服していかなければならない課題が山積しています。その点についてお考えをお聞かせください。

蒲野 この数年、着実に業績を積み上げているににもかかわらず、EV化の進展による主力事業の縮小が懸念されることから、NGKグループの市場評価は必ずしも芳しいとはいえません。そんな中で、2050年の「ありたい姿」を示したNGKグループビジョンを策定し、その通過点として、2030年に新事業化品による売上高1,000億円を目指すNV1000を掲げて走り出ました。NV1000の達成は最重要課題であり、新規事業の創出・拡大に向けての戦略やプロセス、さらにはそれらの絞り込みについて、取締役会でしっかり議論を重ねていかなければならないと思っています。

古川 スピードも重要です。2~3年以内にある程度収益を上げられる見通しを立てないと、達成が難しくなるのではと危惧しています。EV化による主力事業への影響は不可避ですが、その一方で、NGKグループの技術力をもってすれば、EV化に移行するからこそ活躍できる新しい事業のステージもあるはずです。最先端の技術やツールを取り入れ、従来の発想を超えて他社に負けないものをつくってほしいですね。例えば、運用を開始しているマテリアルズ・インフォマティクス(MI)は、新材料・新素材の高効率開発に寄与できる手法として期待を寄せています。

浜田 NGKグループが保有するハイレベルな独自技術をいかに市場のニーズにフィットさせて、ソリューションとして提示できるかがポイントでしょう。取締役会が「外部環境の変化をチャンスと捉えて、こんなビジョンで次のストーリーを展開します」とポジティブなメッセージを発信し、従業員の皆さんが安心して進んでいける流れをつくっていきたいです。

ガバナンス改革による進化と課題

野尻 ガバナンスの改革についてはいかがでしょうか。NGKグループでは、継続的にガバナンス改革に取り組んでいますが、まだまだ足りないところもあると思います。率直なご意見をお聞かせください。

蒲野 ガバナンスについては、実効性・透明性・公正性など、あらゆる面で進歩していると思います。取締役会における社外取締役比率は3分の1になり、多様な議論を通じてのモニタリング機能はより強固になっています。また、指名・報酬諮問委員会の委員長が社外取締役になり、報酬決定の客観性と透明性が担保されています。さらには、サクセッションプランについても、中長期的な計画を示していただいています。

浜田 私は在任期間が6年になりますが、その間、ガバナンス強化に向けた取り組みは着々と進んできたと実感しています。その一方で、PBR(株価純資産倍率)が1倍に達していないということは、NGKグループの企業価値が世の中にうまく伝えられていないのではないでしょうか。NV1000を中心とするこれからの経営戦略について、外に対してアピールしていく必要性を感じています。また、人材の確保・育成は、今後の成長の鍵となります。企業が人材に関してどのように考え、どのような施策を打つのか、国内外から注目が高まっており、NGKグループ人的資本経営方針を通じて、今このタイミングで人的資本に関するNGKグループの考えを示せたことは評価できます。

古川 人的資本経営を進める上で欠かせない要素に多様性があります。日本ガイシでは、基幹職(管理職)に占める女性割合が2022年度は3.8%となっており、これはかなり低い数字です。2030年までには10%程度、2050年までには20%以上にすることを目指しているので、女性管理職の中途採用なども積極的に進めていかなければならないと思います。

浜田 女性活躍推進は、女性にとって大事なことであるのはもちろん、実は男性が着目するポイントでもあるのです。女性の活躍度合いは、その企業に新しい風が吹いているか、変化することに積極的かどうかを測る物差しになりますから。

古川 多様性を含めたグローバル化も課題の一つといえるでしょう。NGKグループは、海外売上高比率が70%を超えるグローバル企業です。しかし、本当の意味で会社がグローバル化しているかというと、まだまだのような気がしているのです。英語研修や留学制度などの制度があり、海外で活躍できる人材の育成に力を入れていますが、日本から海外へ行くばかりではなく、海外の優秀な人材を日本に迎える仕組みがあってもいいと思います。特に研究開発部門などは、そういった人材交流から拓ける未来もあるのではないかと。

マテリアリティの特定について

社外取締役 古川 一夫の写真

野尻 NGKグループは、本年、社会課題の解決と企業の持続的価値向上に向けて9つのマテリアリティを特定しました。特定プロセスなどについて、ご意見をお聞かせください。

浜田 2019年にNGKグループビジョンを策定したときから積み重ねてきた議論を深化させ、さらにこの1年間はマテリアリティ特定プロジェクトのもと、ワークショップを重ねた末に特定に至りました。納得感が得られる、非常に良いやり方だったのではないでしょうか。

蒲野 今期は特定したマテリアリティ、特に気候変動への対応、資源循環の推進、人権の保護などの優先項目を中心に行動計画とKPI(重要目標達成指数)の設定を進めることになります。モニタリング指標の修正や進捗管理をどうするかといったことも含め、引き続き議論を続ける必要があります。

野尻 最後になりますが、社外取締役というお立場から、ステークホルダーの皆さまへメッセージをお願いします。

浜田 100年の歴史を持つNGKグループには、挑戦のDNAがあり、比類のない技術があり、素晴らしい人材も揃っています。成長につながる素地は整っているので、今後にぜひ期待していただきたいです。社外取締役としては、外部視点と専門性を活かして刺激を与える役目を常に意識したいと思っています。

蒲野 「カーボンニュートラル」と「デジタル社会」の2本柱のもと、社会課題の解決への貢献を通じて企業価値向上を目指すNGKグループを、社外取締役という一歩離れた立場から、しっかりサポートしていきたいと考えています。加えて、より健全な企業経営と従業員の働きがいを実現するべく、ガバナンス体制のさらなる強化・充実を目指して尽力していきます。

古川 社内取締役が指摘しづらい問題点などを遠慮なく指摘し、グループ全体が向かおうとしている方向を注視して意見を述べていくことが、独立した立場である社外取締役の大事な任務であると認識しています。株主のほうを向いて企業価値向上を実現すること、従業員がそれぞれの立場で満足して仕事ができる環境を整えること、この二つを特に意識しながら、挑戦と変革を後押していきます。

(インタビューは2023年4月に実施)