リチウムイオン電池などの製造に欠かせないフィルム加熱炉では、溶剤蒸発の過程を詳細に把握することが、製品の品質を大きく左右します。
日本ガイシでは、溶剤表面からの蒸発だけではなく、溶剤内部からの蒸発にも着目した溶剤蒸発解析を完成させることに成功。
これにより塗膜の乾燥状態を定量的に把握し、最適な加熱方式をご提案することが可能になりました。
塗膜内の輻射伝熱、炉内輻射の熱収支、溶剤蒸発にかかる各非定常指標等を重視しながら解析を行い、エネルギー収支を厳密に算出します。
日本ガイシプログラムにて、下記過程の定量的解析が可能です。

産業プロセス事業部 開発G
近藤 良夫
大学では、理論物理(非線形)で、カオス理論を専攻していましたが、今考えると深い部分までは理解していなかったような気がします。社会人になって、少し物理学と距離をおいて、社会の仕組みや人の行動パターンなどを考察していると、妙に「物理現象と同じだ」と気づく部分があります。
そういう“気づき”が物理学に対する興味をさらに高めてくれたように思います。
物理の世界で熱をテーマにする場合、大きく、熱力学と伝熱学にわけることができます。
熱力学は「現象が落ち着いた状態」を解析するのに対して、伝熱学はA状態からB状態に移行する「現象の移行の過程」を解析するものです。移行するということは、時間を考慮することになります。伝熱現象の一種である、拡散現象の一つ「ブラウン運動」をグラフ化すると、その変化はたとえば株価のチャートグラフとよく似てきます。
「伝熱学は面白いな」と思っている時に出会ったのが、私が在籍する事業部が開発した、ワイヤーウォーキング方式を採用した焼成炉・乾燥炉でした。
実はワイヤーウォーキング炉は、炉の中にヒーターとワイヤーしかないため、熱収支等をシミュレーションする上で、とてもシンプルでわかりやすい構造をしています。設計を進めるうちに「これはもしかすると、炉内の温度変化を解析できるかもしれない」と考えるようになりました。
それまでは焼成炉・乾燥炉は、経験と勘の世界。製品を入れて、乾燥して出てきたものを鉛筆などでひっかいて、適度な固さになっていればOKとか……。これに対して熱解析をより進めていくことで、炉の設計自体を効率化できるのではないかという強い予感がありました。
ところが、いざやってみると一筋縄ではいかない。たとえば教科書には、ヒーターと製品の熱のやりとりしか書いていないわけです。そのまま計算するとすごく効率のいい結果になるのですが、実験結果とまったく矛盾します。試行錯誤しているうちに、炉内の壁面温度や、開口部の熱収支を解析しなければ、実際の温度変化をシミュレーションできないことがわかりました。
シミュレーションして、初めて気づくこともあります。高温の炉内の熱収支を解析したところ、ヒーターから出力された熱は、製品に吸収される熱、炉壁に吸収される熱、開口部から熱風として出ていく熱量の合計とイコールであるはずなのに、どうしても計算が合わないのです。
かなりの熱量が、どこかで失われている。ハッと気づいたのが、赤外線ヒーターでした。赤外線は、物体に吸収されて熱に変わりますが、本質は光です。開口部から光の形で放出されているのではないか。
計算してみると、熱収支がぴったり一致。この解析結果を活かして、炉の開口部の形状を工夫した熱効率のよい炉を開発することもできました。
そうして、自分の熱解析結果を反映させた実装置が商品化されるという、経験・喜びを通して、事業部の熱解析の責任者として、現在、各種輻射解析、ワーク温度解析、反応熱解析、粉体シミュレーション、塗膜内の溶剤蒸発解析など、さまざまなシミュレーションシステムを構築しています。
このシミュレーションの理論面での特徴は、独自の放射平衡理論をベースに基礎方程式を構成、透過及び分光の双方に対応した閉空間輻射熱解析、非平衡・非定常輻射場における塗布膜内物質移動解析などです。
また、炉内のモデル化を如何に効率的に、短時間で行うか、という実務的な部分にも独自性があると考えています。計算を複雑にしようとするといくらでも可能です。しかし実際に起こっていることは、シンプルな計算の組み合わせであることが多いのです。
一つ一つがシンプルだからこそ、状況に応じて、きめ細かく考えることができる。私のシミュレーションシステムの革新性を一言でいえば、「短時間の計算で、測定値を相当リアルに再現できる」ということになるでしょうか。開発に着手して以来、累々たる試行錯誤を経て、最近ようやく赤外線炉の本質の一端に触れられることになってきたのかな、と思います。
伝熱現象の解析には、優れた市販ソフトもありますが、それはあくまでも汎用であって、個々の炉を個別に正確に把握できるものではありません。「ヒーター温度をこの温度にすると、製品温度はだいたいこうなりますよ」という結果をある程度予測することはできても、「こういう製品温度にするには、ヒーターの温度設定をどうしたらよいのか、どのような炉内環境にすればいいのか」ということはわかりません。
しかし私の作ったシミュレーションシステムは、炉の運転条件をこのように設定すればよい、つまり、お客様が要望するそれぞれ炉の最適な設計はこうですよ、ということを示すことができます。
現在のように技術革新がとても激しい中では、製品開発の「スピード」と「製品精度」が企業の差異化ポイントとなってくると思います。特に、CO2削減に大きな期待が寄せられているリチウムイオン電池の分野では、そういった動きがとても顕著です。
当社は、リチウムイオン電池の正極材や電極板の製造工程向けに、焼成炉・乾燥炉を製造・販売しておりますが、製品開発のスピード・製品精度のカギを握っているのはシミュレーションシステムだと私は思っております。
製品に応じて、炉内で起こっている現象を踏み込んで知ることができるシミュレーションシステムを通じて、最適な炉を提供できることは、私にとってはこの上ない喜びであり、何よりお客様にとっては大きなメリットになると確信しております。
シミュレーションについて解説したパンフレットをご用意しています。
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