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course 02セラミック材料基礎講座・応用編 02

多孔体講座 02セラミックスハニカム

ハチの巣状態のセラミックス!

前回は、セラミックス多孔体についてお話しましたが、今回はその具体的な製品についてお話しします。

ハニカム模式図
セラミックスハニカム模式図

まずは「セラミックスハニカム」です。ハニカム(Honeycomb)とは、「ハチの巣」という意味です。つまり、「セラミックスハニカム」とは、セラミックスでハチの巣のような形を作ったことからこのように呼んでいます。細い筒状の穴が非常にたくさん開いており、代表的なセラミックス多孔体の一つです。

自動車触媒

では、なぜ、セラミックスをハチの巣のような形にしたのでしょうか? そもそもこの「ハニカム」という形にはどんな働きがあるのでしょうか? さっそく製品を例にとって、分かりやすく説明したいところなのですが、その前に自動車の排ガスとその浄化について、すこしお話します。

現在、ほとんどの自動車はガソリンや天然ガスなどの有機物を燃料として、これを大気中の酸素を使って燃やし、その爆発エネルギーを使って走っています。その際、有機物の燃焼が起こるのですが、通常の燃焼では、燃焼の後、二酸化炭素(CO2)や水(H2O)といった人体に無害なものしか出てきません。ところが、自動車のような大きなエネルギーを得る際には、酸素が足りない状態での燃焼で生じる一酸化炭素(CO)や燃料の分解物(CH)、さらには空気が数百℃を超える高温になったときに酸素(O2)と窒素(N2)が反応してできる窒素酸化物(NOx(ノックス)=NO、NO2)といった人体に有害な排ガスが出てきます。

このような有害な排ガスをそのまま大気に排出するわけにはいきませんので浄化を行うのですが、このとき「触媒」という便利な物質を使用します。触媒の中には有害な排ガスを無害なものに変えてくれるものがあります。最近、自動車で使われている「自動車三元触媒」というものは、先ほどの三つの有害な排ガス(CO、CH、NOx)を無害なガス(CO2、H2O、N2)に変えてくれる触媒です。浄化の際の反応の内容まで説明しますと話が複雑となり、またセラミックスハニカムについてお話している本題からそれてしまいますのでここでは省略しますが、自動車の専門書やインターネットにも、これらに関する情報が載っていますので、興味のある方は調べてみて下さい。

排ガスの浄化イメージ
セラミックスハニカムの使用例動画イメージ

セラミックスハニカムの使用例を動画で見ることができます。

動画を再生する

比表面積

では、この自動車触媒とセラミックスハニカムにはどのような関連があるのでしょうか?

実は触媒を働かせるには、有害な排ガスと触媒を直接触れさせなければならないのです。つまり、触媒をエンジンから出てくる排ガスの通り道に仕掛ける必要があるのです。ところが、一般に触媒は粉状ですので、そのままでは仕掛けることができません。そこで、触媒を支えるもの、「触媒担体」が必要になるのですが、高温でしかも爆風となって排出される排ガスの通路に仕掛けられる触媒担体には、高い耐熱性や強度が求められます。このような要求に対応できる材料として、セラミックスがうってつけなのです。

さらに欲をいえば、担体の形にも要求があります。例えば、その形がパイプやホースのような普通の筒状では、触媒は筒の内表面にしかつけることができません。そうすると、筒の内表面付近を通る有害な排ガスは触媒と接触するので浄化されますが、筒の中心近くを流れるガスは触媒に触れることができないために、浄化されずに放出されてしまいます。

そこで活躍するのが、セラミックスハニカムです。ハニカムの通路は、多数の細長い筒に分かれたハチの巣状です。これら各通路の表面の面積を合計すると、普通の筒に比べ格段に大きなものとなります。そして排ガスはそれぞれの通路に分岐して排出されますので、同じ体積でより多くの排ガスと触媒の触れる機会を増やすことができます。このような、ある決まった体積内の表面の広さを「比表面積」と呼びます。セラミックスハニカムはこの比表面積を大幅に増やすことができます。つまり、排ガスと触媒の接触を非常に効率よく行うことができるのです。

排ガスの通路分岐
セラミックスハニカムによる排ガスの通路分岐

専門的には、ハニカムの穴のことを「セル」、穴を区画する壁のことを「リブ」と呼びます。このセルをできるだけ増やし、リブをできるだけ薄くすることで比表面積を増やすことができます。そうすることにより、触媒と排ガスの反応を促進し、より短時間で確実に有害な排ガスを浄化できるのです。日本ガイシでは、さまざまな自動車や自動二輪車(バイク)用エンジンなど燃焼を伴う機械の排ガス浄化用に、それに応じた外形を持つものを生産しています。また、この比表面積をできるだけ増やすために、ハニカムのセルの数を増やしたり、リブの厚さを薄くする研究を進めてきました。その結果、ハニカムのリブの厚さを限りなく薄くした「超薄壁ハニセラム」と呼ぶ製品を開発することに成功しました(注:「ハニセラム」はセラミックスハニカムの日本ガイシの製品名です)。最も壁の薄いものでは、リブの厚さわずか0.05mmとティッシュペーパーなみの薄壁化を実現しました。また、セルのサイズも0.2mmと、近くに寄ってなんとか人の目で確認できる程度まで小さくでき、これにより大幅にセルの数を増やすことに成功しました。

  • いろいろな外形のセラミックスハニカム
    いろいろな外形のセラミックスハニカム
  • 薄壁化の経緯(超薄壁ハニセラム:右下)
    薄壁化の経緯(超薄壁ハニセラム:右下)

自動車の排ガスは大気汚染の一因として注目され、主流のガソリン車に対しては1970年代から特に厳しい排ガス規制が敷かれました。しかし、このセラミックスハニカムと「三元触媒」の組み合わせで9割以上の有害な排ガスが処理できています。

近年、さらに規制が厳しくなり、それに対応すべく日本ガイシを含め、触媒メーカー、自動車メーカーなどがさまざまな面で研究を進め、現在では、排ガス中の有害物をほんの数%まで削減することを実現しました。

参考文献
「多孔性セラミックスの開発」 服部信/山中昭司監修 シーエムシー(株)